MUTINY
ロブ・デイヴィーとディラン・バーンズによるミューティニー。彼らは、元アンダーワールドのダレン・エマーソンが主宰するレーベル=アンダーウォーターが、ティム・デラックスに続いてリリースするアルバム・アーティストだ。
いまハウスのフィールドでは、ニューウェイヴやディスコ、シカゴ・ハウスなどのリヴァイヴァルが花盛りだが、彼らが志向しているハウスはそういう小乗的なものとは違う。つまり、メガなアリーナでも通用するハウス。それはプログレッシヴ・トランスのフィールドともリンクする、抜群の大衆性に支えられたものだ。
「ミューティニーとしては、6~7年活動している。ユニットとしてのリリースはMAW(レコーズ)から出した“Bliss”が初めてだよね」。
ユニットの肩翼ディランは、まずこう話す。ロブよりも5つ年長、35歳の彼はもともとギタリストであり、この業界には80年代後半、つまり10代の初めからDJとして関わりはじめている。一方のロブは、ミューティニー以前をヒップホップ・プロデューサーとして過ごしていた。彼もディランに負けず劣らず早熟で、19歳からプロダクションを手掛けている。「綱渡りみたいなもの」――彼らは、ミューティニーのこれまでをこう例えるが、しかし、のっけから順風満帆な露出っぷりを見せていたわけだ。何と彼らは、UK出身でありながら、当時いま以上に敷居の高かったMAWからリリースしていたのだから。ここまで読めば、この後どうしてディープ・ハウス道を邁進していかなかったのかと思わず邪推もしてしまうのだが、俗に1,000枚市場とも言われるマーケットよりも、よりメガなハウスとテクノ、トランスの折衷点……彼らが選択したのは、そちら側だった。彼らはそのスタンスをこう説明する。
「例えば、来週からはダレン(・エマーソン)といっしょにロシア・ツアーへ行くし、6月からはイビザでアンダーウォーターのパーティーが月に2回は入っている。こんな生活をするようになったのは、ここ4年ぐらいの話だけど、僕らはこの生活を愛しているし、特に変えたいとも思っていないんだ」(ロブ)。
享楽的なイビザや、本国UKでのホームだという〈Ministry Of Sound〉でのレジデント・パーティー。目まぐるしいツアー・ライフや巨大なダンス・マーケットに溺れることを彼らは楽しんでいる。しかし、それはそれでなかなかのヴァイタリティーを要する芸当だ。加えて、悶々としながら自我と格闘することが今日的にアリかどうかという問題に、彼らなりの回答を見い出しているとも言える。そんなミューティニーが3年ぶりにリリースしたアルバム『Yada Yada』。スラングで〈あーだ、こーだ〉を表すタイトルだ。
「今回は歌ものを意識した点以外、かなりオープンな内容だね。僕にしてみれば、ダンス・ミュージックっていうのは、意識して作るものじゃない。ある程度の大枠はコントロールできるけど、それ以外は予測不可能だ。マシーンで作っているとはいえ、すべてが予測できたら無味乾燥なモノになっているはずだよ」(ディラン)。
ミューティニーの『Yada Yada』。このアルバムはテクノの機能美、ユーロ・トランスの享楽性、ハウスの艶めかしさ……その3点が交錯するポイントで花開いている。もちろん、そこに必要以上の思索はなく、状況を愛する快楽主義が強固にあることは、言うまでもない。
PROFILE
ミューティニー
サフォーク出身のディラン・バーンズと、バーミンガム出身のロブ・デイヴィーによるハウス・ユニット。後にベースメント・ジャックスを結成するサイモン・ラトクリフと共にヘリコプターで活動していたディランがロブと出会い、95年頃に結成。数枚のシングル・リリースを経て、2001年に初のアルバム『In The Now』をリリース。2002年にアンダーウォーターと契約し、シングル“Ya Self”が大ヒット。DJとしてもマイアミやイビザのビッグ・パーティーにて圧倒的な支持を集め、2003年にはダレン・エマーソンと共同でミックスCD『Underwater Episode 2』をリリースしている。このたび、セカンド・アルバム『Yada Yada』(Underwater/BEAT)が日本先行でリリースされたばかり。