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インタビュー

Jake Shimabukuro

ハワイの新世代を代表するウクレレ奏者にして、そこに留まらない活動をも展開するジェイク・シマブクロ。彼の新作には最高にフレッシュなサウンドが満載だ!!


 ボケーッとTVを観ていたら、ハワイ州観光局のTVCMが流れてきた。多彩なハワイの景色と、それに合わせて気持ち良さそうにウクレレを弾くお兄さん。寄せては返す波を観ていたら、なんだかいますぐハワイ行きの飛行機に乗り込みたくなってしまった。で、今回ご登場頂くジェイク・シマブクロはそのTVCMのイメージ・キャラクターとして〈気持ち良さそうにウクレレを弾くお兄さん〉ご本人なのだ。

 ハワイ在住の日系人である彼は「TVCMの撮影ではいろんな島を訪れたんだけど、改めて見ると、ハワイには僕もまだまだ知らない、いろいろな魅力が隠されているんだよね」と言う。確かに、リピーターの多さからしても、ハワイの魅力は一筋縄でいかないものなのかもしれない。それはこのたびリリースされた新作『Walking Down Rainhill』にも表れているわけで。特にタイトル曲にもなった“Walking Down Rainhill”は雨音のなかにウクレレの存在感が際立つ、しっとりとした〈泣き〉の名曲だ。典型的なハワイのイメージを持って聴くと、ちょっと意外なセレクトに思えるほど。

「ハワイは太陽が燦々と輝くこともあるけど、よく雨も降るんだよね。別名で〈レインボー・ステイツ〉と呼ばれているぐらい虹がよく出るし。僕はいつもハワイのいろんなイメージをサウンドでも表現したいと思っているんだ。海や太陽という決まりきったイメージではなく、もうひとつのハワイということでこの曲をアルバム・タイトルに持ってきたわけ」。

  彼は〈ほのぼの楽器〉のイメージが強いウクレレの枠を超えて、ロックやジャズ、ブルーグラスなどさまざまなジャンルを飲み込む変幻自在なアーティストだ。ステージ上では、時にウクレレを歯で弾くというメタル・バンドも真っ青の悶絶プレイを披露したりもする。「ウクレレはシンプルな楽器だからこそ、プレイヤーにはクリエイティヴィティーや、よりイノヴェイティヴな要素が必要とされるんだ」と語るように、その影には常に新しいものへの挑戦と試行錯誤が感じられる。それはサーフィンという同じ趣味を持つ同郷のジャック・ジョンソンを「前から共感できる存在だったんだ。僕も彼も音楽的にハワイアンじゃないという意味でちょっとハズれているというか。ハワイからも新しいアーティストや作品が生み出されている証拠だと思う」と語ることからも伝わってくる。彼が常に〈ハワイ代表〉と括られがちな状況を思い切って打破した新世代のパイオニアのひとりであることは間違いない。 

 しかも今作を聴いて思うのは、彼がただ〈器用な〉アーティストというわけでなく、その振り幅を存分に消化しているということ。TVCMにも使われた“Rainbow”は思わず鼻歌で歌いたくなる美メロ曲だし、“Wes On Four”にはジャズの即興が目の前で繰り広げられているかのような緊張感がある。オープニングの“Heartbeat”では映画のような展開をドラマティックに見せているし、またラストに同曲をリプライズするというジャム・バンド的な手法は、アルバム全体に残像を残す。本人も「今回は曲作りといった部分でもいい経験になった」と言うように、背伸びをしているうちに本当に背が伸びてしまった、そんな印象すらあるのだ。昨年の〈フジロック〉やジャパン・ツアーでの成功も前途洋々たるものだし、今後は本土アメリカでブルーグラス界の天才バンジョー・プレイヤー、ベラ・フレックとのツアーも決定しているという。ライヴを中心にさらにワールドワイドな活躍が期待されるが……。

「今年はソロをはじめ、バンドとのセッションもやれば、初めてストリングスをバックに弾いてみる予定もあるんだ。とにかくいろいろなところで僕のパフォーマンスを披露したい。そこで人が感じてくれることが、良くても悪くても僕にとっては次のステップへと繋がっていくはずだからね。あとは自分のなかのイメージを限定しないように、常にオープンでいたいな。気持ちのなかではいつもハワイにいる気分、でね」。

▼ジェイク・シマブクロの作品を一部紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年07月08日 12:00

更新: 2004年07月08日 15:15

ソース: 『bounce』 255号(2004/6/25)

文/松岡 絵里