インタビュー

Ricky Fante

60年代の息吹を醸し出す熱いソウル・ヴォーカル……期待の新星がついにヴェールを脱いだ


 昨年末、EP盤の『Introducing...Ricky Fante』がリリースされ、その60年代ソウル然としたレトロなサウンドと、オーティス・レディングなどを思わせるしわがれた熱血ヴォーカルが話題を呼んだリッキー・ファンテ。音楽好きな両親のもとワシントンDCで生まれ育ち、「スティーヴィー・ワンダーこそが僕の憧れなんだ」と語るように、幼い頃は近所でスティーヴィーの物真似をして友人を作っていったという。他にもインク・スポッツなどの古いリズム&ブルースに影響を受けたようで、およそ現代の26歳の青年とは思えぬほどの老成ぶりだが、自身の音楽に対する思いはこうだ。

「ディアンジェロやビラル、ミュージックたちよりも、もっとクラシックなソウルをやりたかったんだ。でも、そういうアプローチをしようと綿密に計画を立てて作ったわけではない。ただ、そうすることが古い音楽を好きな僕には自然なことだと思ったからだよ」。

 とはいえ、みずから「僕はDCでいちばんワイルドな男!」とうそぶいてみせる彼は、14、5歳の頃には、当時DCで盛り上がっていた〈ゴーゴー〉に触発されてアマチュアのゴーゴー・バンドに参加。高校卒業後は海兵隊入隊を経て大学進学するも、音楽への夢を諦めきれずに中退、そこで結成したのがリッキー・ファンテ&スコット・リケットという(白人男性との)デュオだった。彼らは自主制作盤を1枚制作するが、そのデモをきっかけにリッキーはヴァージンとソロ契約。前述のEPリリースに続いて、今回のアルバム『Rewind』へと漕ぎ着けた。制作は後見人のジョシュ・デューシュで、バックにはノラ・ジョーンズの楽曲に関わったギタリストのジェシー・ハリスや大御所アレンジャーのアリフ・マーディンらが関与。ホーンなど楽器の音色ひとつ取っても、まるで60年代のサザン・ソウルを思わせる。

「〈Soulfully Organic〉って感じかな。ただ僕たちが真似したのは、スタックスみたいな60年代のソウル・ミュージックのレコーディングの構成だけ。まあ、こんなことをやってられるのも、今と昔のサウンドのギャップを狭めてくれたノラ・ジョーンズのお陰だよ」。

 あのアイザック・ヘイズとも共演し、数年前からはスクリーンで大御所ソウル・シンガーの役も演じているリッキー。それでも彼は「僕は自分の音楽がリアル・ミュージックだと吹聴したくないんだ」と過去の音楽を絶対視しない。次作では〈2050年代〉の音をめざすというから、実に頼もしい限りである。

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掲載: 2004年08月12日 12:00

更新: 2004年08月12日 19:39

ソース: 『bounce』 256号(2004/7/25)

文/林 剛