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インタビュー

ASA FESTOON

深みのある独特の歌唱と和の情景が織りなすハーモニー――夏の夜を優しく揺らす新作『ナツハヨル』完成!


 夕闇が迫る盛夏、Asa festoonの新作『ナツハヨル』を聴いていると、心浮き立つ気持ちがゆったりとした空気に溶け込んでいくのを覚える。ラテンやボサノヴァ、ジャズのエッセンスを詰め込んだオーガニックなサウンドと深みのある歌声でカフェ・ミュージック愛好家を中心に話題を集めてきた彼女だが、「なんとなく息を呑んでじっと聴くというのではなくて、大げさではなくてもいいので、少し身体が揺れる感じというのを作りたいなぁと思って」EGO-WRAPPIN'のベーシストである真船勝博を迎えたレコーディングは、彼女にとってのダンサブルな要素をナチュラルに引き出すことに成功している。フリーフォームな音楽観にあえてテーマを設けることが、繊細なうねりを呼び起こしたといっていいだろう。デビュー作をキューバで録音し、また大阪を拠点に活動を続けてきた彼女にとって、東京という都市もまた、音楽的コスモポリタニズムを刺激する場所だったようだ。

「東京というか江戸は、上方(関西)とはまた違う日本の美しいことがいっぱいあるなぁと思う。歌舞伎の色の使い方とか、浅草の街にいるおじさんのしゃべり方を聴いていてもおもしろいし。ちょっとした、自分なりに感じている日本の誇れるところや好きなところというのが、この何年か溜まってきていて、自分が作るものにも入れてみたいとずっと思っていたんです」。

 アルバムが夏の夜の匂いを含み展開するなか、ボッサ・クラシック“The Gift”のジャジーなカヴァーが挟まれる、深みのあるコントラストもおもしろい。紋切り型なシノワズリともちょっと異なる、和の風情や粋が散りばめられた今作は、3枚目のアルバム『SUIREN』でのヒリヒリと張り詰めた感触に比べると、ずっとリラックスして開放的だ。  

「アルバムを作るとか曲を作るというのは、自分のなかから何かを人前にお出しする作業。でもそこまで制作で自分にとっての内部に近い、ドロッとした作品を出していいのだろうかという緊張感があった。けれど、『SUIREN』を思い切って聴いていただきましょうかっていうスタンスで作って、もしかして何かがふっ切れたのかもしれないです」。

 自身で〈解放された〉と語るように、このアルバムにおける躍動やポップ感は、彼女のなかで生まれた、歌っていくことへのある種の柔らかな確信から生まれているのかもしれない。

「やっぱりね、ブルースみたいな労働歌があったり、童歌があったり、流行歌があったり、歌っていろんなスタイルのものがあっていいと思うんですけれど、これまで自分が4枚のアルバムを作って、やっぱり明るいこと、陽の当たることを歌うのって今やりたいことのひとつだなと。そうは言っても、太陽が燦々と降り注ぐというのではなく、夏の夜に、どこか昨日よりは明日を向いているみたいに歌いたい」。

 Asa festoonの歌には、聴くものを振り向かせずにはいられない、沸々と沸いてくる秘めた力がある。試しに、あなたの周りの気になる誰かに聴こえるように、このアルバムをプレイしてみるといいよ。

▼Asa festoonの作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年08月26日 16:00

ソース: 『bounce』 256号(2004/7/25)

文/駒井 憲嗣