インタビュー

Fernando Saunders

ルー・リードからキップ・ハンラハンまでを魅了する“魂”のベーシスト


photo:Yuichi Hibi

やはりルー・リードの名前を出すのが、ツカミとしては最適なんだろうか。82年の『ブルー・マスク』から最新ライヴ盤『アニマル・セレナーデ』まで、ほとんど全てのアルバムでベースを弾き時にルーと曲を共作したり、プロデュースしたりもしてきた。去年のワールド・ツアーでは、フィーチャリング・シンガーとして自作曲を歌うコーナーもあったりと、とにかくここ20年ほどのルー・リードの活動にはなくてはならないキーパーソンなのである、フェルナンド・ソーンダースという男は。先日ニューヨークで会ったルーも、こう言ってフェルナンドに対する全幅の信頼を表明していた。

「20年以上も一緒にやってきた理由? 演奏が素晴らしいからさ。彼の演奏なら、永遠に聴いてられるよ。うん、俺は彼のファンなのかもしれないね」。

 がフェルナンドは、ルー・リードの専属というわけではない。これまでに彼がアルバムに参加してきたミュージシャンをざっと挙げてみると、ジェフ・ベック、ジョン・マクラフリン、ヤン・ハマー、ラリー・ヤング、マリアンヌ・フェイスフル、パット・ベネター、ハミルトン・ボハノン、ピアース・ターナー、スティーヴ・ウィン(元ドリーム・シンジケート)、ピーター・シェラー、ローチェス、ゲイリー・ルーカス、エディ・パルミエリ、リュウ・ソラ等々。もちろん本誌読者にはお馴染みのキップ・ハンラハン関係の諸作でも頻繁に登場してきた。白黒黄、ジャズにロックにソウルにディスコ、ラテンにエスノ・アヴァンギャルドまでとそのカヴァ範囲はとんでもなく広い。ひとことで言えば「万能」ってことになるわけだが、ただ器用なだけでなく、何を弾いても独特のグルーヴ感と歌心があるってことが、彼の人気を支えてきたのだと思う。そしてそのグルーヴ感と歌心は、これまでの自身のソロ・アルバム『Cashmere Dreams』(89年)、『The Spin』(93年)でも証明されてきたわけだが、昨年10年ぶりに出た3作目『I Will Break Your Fall』(7月にタワー・レコードから国内発売)を聴くと、そこに更なる深み、というか慈しみのような情感が加わっており、ルー・リードの気持ちもわかるよなあと、つい呟いてしまうのだった。 まずは、その長く多彩なキャリアについて本人に語ってもらおう。
 
「デトロイトで生まれて、モータウン・サウンドで育ち、まだ高校生だった16歳で初めてレコード録音を経験した。ハミルトン・ボハノン(スティーヴィー・ワンダー他モータウンで活躍したドラマー/作曲家)のアルバム『Keep On Dancin'』(74年)だ。マイケル・ヘンダーソン(マイルズ・デイヴィス他でお馴染み)の代わりとして演奏したんだ。親戚に何人もバプティスト派の牧師がいたこともあり、平日からいつも家庭内でゴスペル合唱の練習をしていた。だから音楽的ベースは、まずはゴスペルやR&Bであり、学校ではクラシックやジャズも学んだけど、デトロイトでは何でも知ってなきゃやっていけなかったよ」
 
そしてやがてニューヨークでラリー・ヤングと共演したことがきっかけで、ジャズ・シーンとの関わりを深めてゆく。

 「18歳の時にはサン・ラーのアーケストラに参加したこともあった。当時はまだボハノンのバンドにいたんだけど、どこにいても日曜になるとデトロイトに戻り、サン・ラーのバンドに加わっていた。レコードには参加してないけどね。彼は表現の自由、そして自信をくれたと思う。後にヤン・ハマーやジェフ・ベックとの共演がきっかけでジョン・マクラフリンのアルバムにも参加したけど、サン・ラーとの体験がなければ、自信を持ってやれなかったと思うな」

 そう、彼の多彩な共演キャリアの中でも、ヤン・ハマー、ベック、マクラフリンといった70年代末期の流れは、特に重要だろう。今回のニュー・アルバムでもラストに1曲だけ、あの時代を彷彿とさせるスピーディなフュージョン風の曲が入っている。

 「ヤンから受けた影響は大きいね。彼がああいうリズムを教えてくれたんだ。最初僕はヤンの家に移り住んで、三ヶ月間勉強したんだけど、そこで聴くことが許されるのはインドの古典音楽だけだった。それから5拍子で練習しろ、5がわかれば俺の音楽が演奏できると言うんだ。5拍子が全てだったね。その後9拍子をやって…気がつけばそれは体の一部となってる」

 ルー・リード・バンドへの抜擢も、このあたりのキャリアが高ポイントになっているようだ。

 「ルーは元々ダンス・ミュージックが大好きで、ボハノンのファンだったんだが、僕がボハノンとマクラフリンの両方のバンドにいたと言っただけでOK、それで十分だ、と(笑)」

 そのルー・リードについては、こう語る。


フェルナンド・ソーンダースとルー・リード

 「ヴェルヴェッツに関してはよく知らなかったけど、ルーの作品は聴いてたよ。音数の多いミュージシャンと一緒にやってた頃、ルーのようにやれよと言ったことがあったね。マイルズ・デイヴィスやルーなどが持っているシンプルな空間性がいいと思って。そしたら、その2週間後にルーと会った。彼の物語を語るその語り口にはとても影響を受けた。言葉のジャズ・ミュージシャンだと思うな。また音楽的にも、彼の簡潔さ、シンプリシティには作詞以上に影響されたかもしれない。ルーはひとつのコードで書いたりするんだけど、それはたったひとつのコードからでもいろんなことを聴きとれるからなんだ。よく聴けばひとつのコードにいろんなメロディーがある。簡潔であるということはとても重要なんだ」
 
そしてキップ・ハンラハンとの出会い。

 「20年近いつきあいの中で、キップからはとにかく色んな人間を紹介してもらった。世界中の。まるで学校に行ってるようだ。彼は最初から自分のヴィジョン、アイデアがはっきりしている。ロマンティックな人だよね。表現の自由はもちろんあるし、あと彼はダーク・サイドとロマンティック・サイドを持ってる。歌に関してもいろいろ教わる部分が多かった。言葉でどういう風に間を置くかとか。歌うというのはある意味演技だと思うけど、それを教わった気がする。シングアウト、はっきり歌えと言われたな」

 そうした諸々の経験が、今回の3作目のソロ・アルバムにも反映されているのだろうが、キャリアから見ると、かなりストレートでポップなヴォーカル作品になっているのが、ちょっと意外でもある。

 「実は9・11の後、ちょっと方向性を見失っていたんだが、あの事件後、自分の感じていることを、もっとはっきり、積極的に表現していかなくてはと強く思うようになった。《ペイン》とか《エンジェル》といった曲名にもそういう気持ちは表れており、聴いた人たちがメイルなどであれこれ反応してくれている。僕はいろんな所いろんなことをやってるし、人は僕の音楽家/演奏家としての多彩さをよくわかってくれていると思うから、このソロ・アルバムではミュージシャンシップを全部出そうってことでもなくて、とにかく自分の感じたことを素直に表現しているだけだ。元々デトロイトのブラック・ミュージック・シーン出身だから、ヴォーカリストとしての側面も出したかったし。これがきっかけになって、また他の作品で僕の演奏を聴いてもらえればうれしい。キップの音楽とかね」

 心に沁みる歌声が温かい人柄をそのまま表した、正直な作品だ。

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掲載: 2004年08月26日 15:00

更新: 2004年08月26日 17:05

ソース: 『bounce』 49号(0/0/0)

文/松山晋也