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インタビュー

SIM REDMOND BAND


(c)Yosuke Komatsu

 NY出身という色眼鏡でシム・レッドモンド・バンドのニュー・アルバム『Shining Through』を聴くと、構えていた気分が一転してユルユルなサウンドに脱力してしまうだろう。美しく響く音と主従を柔軟に入れ替える男女ヴォーカルのハーモニー、そしてなによりもメロディー。太陽や風、水や滝といったものをモチーフにした曲も多く、目の前に浮かんでくる景色はあくまでもナチュラルなもの。ジャック・ジョンソンをハワイの波間からアメリカの広々とした牧場に連れ出した感じ、とでもいおうか。 NYの摩天楼からはとても想像できないサウンドだと思っていたら、彼らの出身地はニューヨーク州でもマンハッタンから離れた人口3万人程度のイサカという街だそう。

「イサカは滝や川や峡谷や丘、そして太陽の光や雨に囲まれているところなんだ。本当に美しいところで、だからこそ僕らの曲には自然をモチーフにしたものが出てくるんだと思う。自然から生まれた曲がいちばんナチュラルだと思うし」(シム・レッドモンド : 以下同)。

 同じNYといえども、摩天楼がある一方でちょっと行くと美しい自然がある。そこがいかにも広大なアメリカ。そういえば「イサカのミュージック・シーンからはとても影響を受けている。いいバンドもいっぱいいるしね。ここでは毎年〈グラスルーツ・フェスティヴァル〉というフェスがあるんだ。地元のバンドはもちろん、世界中でプレイしているミュージシャンも出ていて、僕らにとってはそんな音楽にさらされるのも刺激的なんだ」とも。

 地元に根差していながら、ワールドワイドな肌感覚を持つ彼ら。影響を受けたアーティストは?と訊くと「ボブ・マーリーやピーター・トッシュ、ジミー・クリフなんかのレゲエに影響を受けたメンバーもいるし、トーマス・マプフーモ、オリヴァー・ムトゥクジといったアフリカ音楽も聴くね。個人的にはボブ・ディランやポール・サイモンからも影響を受けているよ」と続々と名前が出てきた。レゲエにアフリカンにロック……彼らは多様な音楽を呑み込んでいるが、アウトプットされるものはエスニックな雰囲気ではなく、誰もが心地良くなれる歌であり曲である。そう思うと、これらのアーティストはそのエスニック・グループを代表するアーティストながら名曲を数多く残している人たちであることに気付く。

 だからこそ、シム・レッドモンド・バンドは時として〈ジャム・バンド〉と形容されることに対しては「ちょっと不思議だなって思うこともあるよ。僕らはいわゆる典型的なジャム・バンドのような長いジャム・セッションや実験的なことよりも、もっと曲自体にフォーカスしているからね。だけどもちろん僕らも実験的な要素も含んでいるから、ジャム・バンドのファンにも受け入れてもらえると思う」と言う。確かに彼らの音楽はいかにもアメリカ的な〈ジャム・バンド〉という枠に当てはめるよりももっと自由で普遍的なもの、そんな気がするのだ。それは近づいてきた来日ツアーでこの目と耳で確かめるしかない。

 シムはみずからの音を「男性や女性や10代の子や子供やお年寄りや……とにかくいろいろな層の人たちにアピールするものだと思う。言葉の壁を超えて、世界中の人種や文化を超えて、ね。それこそが音楽やすべての芸術の素晴らしいところだしね」と言う。アメリカ人だから英語で歌って当然でしょ、というアーティストが少なからず存在するなか、彼らはもっともっと大きな世界を見ているのだ。

「このアルバムが悲しみや憎しみに満ちた世界に少しでも平和や思いやりの気持ちを生み出せればいいと思っているんだ。人間はお互いに助け合わなきゃいけないし、そもそも同じ人間同士、共感を持つことが必要だと思う。世界は希望を求めているなか、僕らのアルバム『Shining Through』が暗闇にちょっとでも明かりを灯せればいいと願っているんだ」。

PROFILE

シム・レッドモンド・バンド
NY州出身の5人組。シム・レッドモンド(ギター/ヴォーカル)とウニート・カルーヨ(ヴォーカル)の柔らかなハーモニーを持ち味にライヴ活動をスタートさせ、99年に『The Things We Will Keep』でデビュー。2000年には『Good Thoughts』を、2001年には『Life Is Water』をリリース。アフリカ音楽やカリビアンの要素を吸収したアコースティック・ロックがジワジワと人気を集め、ジャム・バンド系ファンを中心にした高い支持を獲得することになる。日本では今年に入ってから2001年の『Life Is Water』が突如として注目を集めはじめ、ビッグ・セールスを記録。待望の初来日ツアーも決定するなか、ニュー・アルバム『Shining Through』(I-Town/Buffalo)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年09月16日 12:00

更新: 2004年09月16日 15:53

ソース: 『bounce』 257号(2004/8/25)

文/松岡 絵里