Anita Baker
陶酔はやがて恍惚へ……極上のアーバン・グルーヴと共に、伝説のシンガーが帰ってきた!
カムバック。
10年間のセミリタイアからあのソング・スタイリストが帰ってきた。きらびやかで、都会的で、ちょっとジャジーでおしゃれで。18年前、“Sweet Love”がラジオで大ヒットし、アルバム『Rapture』はベストセラーになっていた。これを歌っていたのは、アニタ・ベイカーというシンガーだった。86年当時、アメリカのラジオ業界で流行し始めていたフォーマット〈クワイエット・ストーム〉(スロウのソウル・バラードと若干のジャズ風インストゥルメンタルなどを適度にミックスしてかけるラジオ・フォーマット)の女王となっていたアニタ。その彼女は94年の『Rhythm Of Love』以来、子育てと病気の両親の世話などに忙殺され、音楽活動を休んでいたのだ。
しかし、両親は残念ながら98年と2000年に他界、子供たちもそれぞれ10歳を越え、彼女には時間と心の余裕ができてきた。アニタは言う。
「母が亡くなった後、子供も徐々に大きくなって自立しはじめていたのね。その時ふと〈私はいったい何をすればいいのだろう〉って考えた。そして〈歌えば、いいんだわ〉ってわかったの」。
こうして彼女のカムバックの期は熟した。新作『My Everything』では、1曲目から最後まで、そのサウンドはかつてのものと寸分も変わらない。言ってみれば、不変の普遍的なサウンドだ。そして特別ゲストとして、かのベイビーフェイスが1曲でデュエットしている。
アニタは86年から95年までのわずか9年の間に8つのグラミーを獲得している。彼女の魅力は、ジャズの要素もありつつ、わかりやすいブラック・コンテンポラリーのサウンドでまとめられている点。初めて聴いた人でも、どこかでかつて聴いたことがあるのではないかと思えるようなノスタルジーをも感じさせる声、サウンドが最大の武器だ。
アニタの世界的なベストセラーにして名盤『Rapture』がリリースされた86年はまさにバブル全盛期。きらびやかで、バーではシャンパンのボトルがあちこちで抜かれていた、そんな時期だ。アニタのイメージはそんな華やかな時代と微妙に重なる。いい意味でリッチで贅沢なシンガーだ。彼女が10年ぶりにカムバックする2004年、世界の景気も徐々に上向いてきているかのようだ。アニタのカムバックと共に煌びやかなひとときが戻ってくる。いいことだ。
▼アニタ・ベイカーの代表作。