Kaki King
今年の〈フジロック〉で、無戒秀徳アコースティック&エレクトリックを観る前に山の中腹で寝そべってたら、なんだかストレンジなサウンドが下のほうから聞こえてきた。向井くんも言ってたけど(9月号のZAZEN BOYSインタヴュー参照)、ただのギター・インストゥルメンタルというにはオルタナティヴすぎるし、よくあるヒーリングものとはあきらかに違うエッジの立ったパンクな響きがそこにはあった。立ち上がってステージを見下ろしてみると、まだハイスクールに通ってるようなキュートな女の子が、エレクトリック・アコースティック・ギターであるオヴェーションのボディー全体を目まぐるしいスピードで撫でたり叩いたり、まるでピアノを弾いているかのようにせわしなく10本の指をフレットの上で動かしたりといったパフォームをしていた……。そんなカーキ・キングのリズムとベースライン、そしてメロディーをひとりでプレイするといったユニークなスタイルはどうして生まれたのだろうか?
「トラディショナルなプレイ・スタイルは長いことやってきたから、自分でも新しい何かを見つけたいと思ってたのよね。それでギターのすべてを使っちゃえってことになったの、それも自然と。ギターってソロの楽器としては本当に優秀だと思うの。とても低い音からすごくハイトーンな音まで広いレンジでサウンドを出すことができるし、コードを鳴らしただけでも、あるいは自分の思うように掻き鳴らしたってその人自身の音楽を奏でることができるという意味では。他にもボディーを叩いてパーカッションのようにも使えるし、ピアノじゃそんなわけにはいかないけど、ギターだったらどこにでも持ち出し可能だから」。
これまでNYを中心にソウライヴやロバート・ランドルフ、チャーリー・ハンターなどジャム系のアーティストと共演したりイヴェントに出演してきた彼女だが、「演奏したり曲を作ったりする場合はいつもその時のエモーションや感情を大事にしてるわ。頭で考えても思ったようにならない、どうしようもないこともすべてその時の感情に任せるわけ」という、混沌としながらもフリーで時には繊細で美しいその独特のサウンドがジャム・バンド・シーンからも支持されているのだろう。そして今回リリースされるセカンド・アルバム『Legs To Make Us Longer』は、オルタナティヴ・ロックのようなエモーショナルな曲からポスト・ロック的サウンド、そしてジョン・フェイヒーなどにも通じるフィンガー・ピッキングによるナンバーなど、前作にも増して幅広い音楽性を聴かせてくれる。また、少しエキゾティックな響きが随所に聴き取れるのも特徴だ。
「中東のウード・プレイヤーでハムザ・アル・ディーンなんかは最高にクールね。ウードはいつか弾いてみたいと思っているの。あと、もうたっくさんのブラジル音楽とかアフロ・キューバンの音楽を聴いてるわ。それらのほとんどはアフリカを起源にしてるわよね。だから少なからずそんな影響を受けていたっておかしくはないわ」。
尊敬するギタリストとしてアレックス・デ・グラッシとプレストン・リードの名を挙げ、ストラヴィンスキーがもっとも尊敬するミュージシャンだという。そして「私がもっとも影響を受けた人といえば、ビョークとPJ・ハーヴェイの2人で決まり! でもスミスやU2、フリートウッド・マック、デペッシュ・モード、ステレオラブ、レッド・ハウス・ペインターズも大好き」という彼女。「それにヴィルジニア・ホドリゲスってブラジルのシンガーも最高」とカエターノ・ヴェローゾお墨付きのアフロ・ブラジルのミュージシャンの名前までも口にするカーキ・キングは、まったく新しいスタイルのフレッシュなサウンドを創造する、まったく新しいタイプのミュージシャンだ。最後に、この新作についてひとこと。
「私みたいに人生のほとんどを音楽に取り憑かれてるような人に聴いてもらいたいわ!」。
PROFILE
カーキ・キング
アトランタ出身の24歳。幼少期よりクラシック・ギターを弾きはじめ、やがて父親のコレクションのなかからジョイ・ディヴィジョンやスミスなどを好んで聴くようになる。一時は離れていたものの、TVでエディ・ヴァン・ヘイレンのプレイを観たことをきっかけにふたたびギター演奏を再開、99年には大学進学のためにNYへ移り住み、バスキングを続けながら曲を作り貯める生活を送る。2003年にはファースト・アルバム『Everybody Loves You』を発表し、マイク・ゴードンやトニー・レヴィンらのサポートアクトも経験、そのワン・アンド・オンリーなパフォーマンスが大きな話題を呼ぶ。このたびニュー・アルバム『Legs To Make Us Longer』(Epic/ソニー)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2004年10月14日 17:00
更新: 2004年10月14日 17:06
ソース: 『bounce』 258号(2004/9/25)
文/ダイサク・ジョビン