インタビュー

Caravan (J-Pop)


 遠い外国の街でなくてもいい。たとえ隣町であっても、知らない場所にふと立ち寄ったときの、あの感覚を思い出してほしい。もしくは幼い頃、電車の窓に貼りついて流れる景色を見ていたときの感覚といおうか。Caravanのセカンド・アルバム『Trip in the music』を聴いていると、心のどこかに眠っていたそんな感覚がムクムクと喚起され、思わず立ち止まって耳を傾けたくなってしまう。テーマはズバリ、旅。

「もともと旅が好きっていうのもあるんですけど、もっと日常的に〈旅感覚〉みたいなものを持っていたいなっていう気持ちがあって。ファースト・アルバムの『RAW LIFE MUSIC』を出してからツアーをやったんだけど、そこでそんな旅の感覚みたいなものを再確認したんですね。だからツアーから戻ってきて、そんな気持ちが生々しく残っているうちに次のアルバムを作りたかった。それで先に〈Trip in the music〉っていう言葉を作って、それに合わせて曲を作ったんです」。

 Caravanの音には、アコースティック・ギターの心地良いメロディーとさりげなくも叙情的なトラック、そしてときおりハッとさせられるような言葉を含んだ歌がある。そこには度肝を抜くような奇抜さはないが、閉ざしていた心のドアをそっと叩いてくれるような名曲がある。

「もともとバンドをやってたんですけど、バンドを辞めた当初は〈俺、こんなこともできるんだぜ〉って自分自慢みたいなことをしていた時期もあった。ただ、ある時期にふと違うなって思ったんですよね。スゴイことをするっていうよりも、本当にいいものはいいんだし、〈スタンダードがいいよね〉って素直に思えるようになった。だから半年後に飽きられてしまうものよりも、ずっと聴き続けられるものを作っていきたい」。

 そのメロディーメイカーとしての力量は、YUKI“ハミングバード”の作詞/作曲を手掛けたことや、昨今良い音にはいち早く反応するサーファーたちに前作が支持されたことからもわかる。とはいえ、そんな客観的評価がなくても、彼の音楽を二度聴いてみたら、それは間違いなく伝わってくるだろう。気付けば彼の曲に合わせて鼻歌を歌いたくなっているからだ。

 Caravanはソロ・アーティストとしてすべての楽曲制作を担う。制作の多くにMPCを使っているが、それはいわゆる〈宅録〉と呼ばれるイメージからは遠い、手作りの温かい音だ。そのサウンドの手触りや言葉の乗せ方には、どこかヒップホップ的な匂いも感じられる。

「確かにジョン・レノンやニール・ヤングをいいねって聴く感覚で、アレステッド(・ディヴェロップメント)だったりルーツだったりを聴いてきた。どのジャンルだからとか、そういうのはあんまり興味がないんですよね。いまのリスナーの人たちもそういうのを気にしてないと思うし」。

 気張らないその姿勢は実に今の時代にマッチしているし、そしてなにより自然体だ。だからこそ彼は「僕はロックスターじゃない。ステージに立っているからスゴイとか、音楽をやっているからスゴイとか、そういう感覚はないんです。たまたま僕が音楽が好きで音楽を続けていたからこうなっているだけで、ずっと等身大のものをやっていきたいと思っています」と言う。そう、彼の言う〈旅〉は巷の人々に驚かれるような大冒険なんかじゃなく、誰の心にもある心象風景だ。

「知らない人と初めて話すのも旅だと思うし、移動するときにふと知らない風景を見るのも旅だと思うし。旅はきっと日常のなかにもあると思うんです」。

 だから、普段はバリバリのパンクを聴いている人も、打ち込みの音が大好きな人も、ぜひ一度Caravanの音に耳を傾けてほしい。毎日満員電車に揺られる日常に疑問を感じている人も、なんとなく〈どこかに行きたいな〉と思っている人も、もちろん。Caravanの音を聴いていると、忘れていた感覚が思い出されて、つかの間の旅に出られるはずだから。

PROFILE

Caravan
74年生まれのシンガー・ソングライター。ヴェネズエラで幼少期を過ごす。ブルースやヒップホップに影響を受けて音楽活動をスタートさせ、高校時代にはファンク・バンド、The telephone kingを結成。99年には同バンドのデビュー・アルバム『BGM』をリリースするものの、2001年に脱退。ソロ活動開始後、2003年になるとYUKI“ハミングバード”の作詞/作曲を手掛けたことで一躍注目を集める。2004年4月にファースト・アルバム『RAW LIFE MUSIC』をリリース。リラクシンな歌声とMPCによるトラックメイクが話題となる。またサーフ・ショップなどでのライヴ活動でその支持層を拡大。このたびニュー・アルバム『Trip in the music』(AARON FIELD)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年11月25日 13:00

更新: 2004年11月25日 18:55

ソース: 『bounce』 260号(2004/11/25)

文/松岡 絵里