Q And Not U
ラプチャーや!!!、フェイントなどのバンドを例に挙げるまでもなく、とにかく最近は〈ハードコア→ニューウェイヴ/ポスト・パンク〉の流れが熱い!! 70'sパンクの嵐が吹き荒れたあとのあの時代と同様、パンク/ハードコアの自由な実験精神と攻めの姿勢がダンス・ミュージックの肉体性と結びついて、大いに盛り上がっているわけです。そんな状況のなか、またしても一つのバンドが大傑作を完成させました! そのバンドの名はQアンド・ノットU。ワシントンDCのパンク・シーンでキャリアをスタートさせ、フガジのイアン・マッケイが主宰するレーベル、ディスコードからすでに2枚のアルバムをリリース。独特の奇妙な感覚を持った〈知的ポップ・コア〉とでもいうべきサウンドで注目を集めていた彼らですが、3作目となる今作『Power』は、こちらの予想を遙かに超えて一気にヴァージョン・アップ! のっけからトーキング・ヘッズばりのギター・カッティングとファルセット・ヴォイス全開のハイパー・ディスコ・チューンでリスナーをノックアウト! ホント、ひと皮もふた皮もムケちゃった感じです。
「パンク・ショウとダンスフロアには同じスピリットが渦巻いているよ」と語るのは25歳のクリス・リチャーズ(以下同)。
「パンクやハードコアは僕たちの母国語みたいなものだよ。でも同時に僕たちは凄く好奇心が旺盛でいろんな音楽が好きだから、ダンス・ミュージックやほかのカテゴリーの音楽からも影響を受けるのは当然だと思うんだ。それにダンス・ミュージックもパンクも、自分が属するコミュニティーや仲間との儀式に近いような、陶酔する感じが共通していると思うんだよね」。
ブラック・フラッグとバッド・ブレインズを「史上最強のバンド」としてリスペクトしつつも、さまざまな音楽を貪欲に消化/吸収してきた彼ら。じつは普段聴くもののなかで、パンク/ハードコアの占める割合は1割程度とのこと。
「ツアー・バスの中にはキンクスやジェイムズ・ブラウン、マイアミ・ベース系とかジェイ・ZのCDが転がっている調子なんだ」。
そういった音楽的背景から生み出された今回のサウンドは、ニューウェイヴ/ポスト・パンク以外にも、ブリティッシュ・フォークやフレンチ・ハウス、グラム・ロック、アフロビートなど、さまざまな要素からの影響が反映されている。
「アメリカのバンドは同時代のバンド・スタイルや音楽性を採り入れるものだけど、そういうバンドたちに注目したり連帯するよりも、その元になっているバンドに興味を持っちゃうんだよ。!!!やラプチャーもいいバンドだけど、それよりはシックに興味を持ってしまうようにね」。
現在の時流やシーンにリンクするというよりは、自分たちの音楽的欲求に対し忠実に変化/進化を遂げてきたというわけです。ところで気になるのが、彼らの音楽性同様にユニークなバンド名。一見してなんだか意味不明なこの名前の由来は……?
「英語だと〈Q〉で始まる単語は、2文字目には必ず〈U〉が続くんだ。〈Question〉〈Queen〉〈Qualitiy〉みたいにね。だから〈Q〉のつぎが〈U〉じゃないっていうのはありえないことなんだけど、そういう状態ってどんなものなのかなぁ~?なんてフィーリングを想像してみたわけ。日本のみんなに理解してもらえるかな?」。
はい、〈次はこうなるだろう……〉というありきたりな予想や固定観念を覆す、彼らの音楽性を的確に表していると思います。気の早い話だけど、この次のアルバムでもきっと、こちらの予想を良い意味で裏切って、とんでもないサウンドを聴かせてくれるはず! だって、〈Q〉のあとは必ずしも〈U〉じゃないんですからね。
PROFILE
Qアンド・ノットU
98年、ワシントンDCで結成。当初は4人組だったが現在は、ハリス・クラー(ヴォーカル/ギター)、クリス・リチャーズ(ギター/ベース/ヴォーカル)、ジョン・デイヴィス(ドラムス/ヴォーカル)のトリオ編成。地元でのライヴを中心に活動しながら、2000年にアルバム『No Kill No Beep Beep』でデビューを果たし、2002年にはセカンド『Different Damage』を発表、2003年には来日公演も行っている。ダンサブルなポスト・ハードコア・サウンドがUSインディー・ロック・ファンを中心に大きな支持を集め、いまやディスコードを代表するバンドの一つである。このたびサード・アルバム『Power』(Dischord)がリリースされたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2004年12月09日 13:00
更新: 2004年12月09日 17:12
ソース: 『bounce』 260号(2004/11/25)
文/粟野 竜二