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インタビュー

モダーン今夜


ちょうど1年前に“星屑サンバ”を聴いた時、頭の中にまばゆい星が細かい結晶のように降り注いだ。それくらい、モダーン今夜の音楽は鮮烈だった。前作『赤い夜の足音』で、一躍その名を知らしめた11人の音楽集団、自分たちの歩みで活動を続けてきたモダーン今夜の新作『青空とマント』。彼らの色彩感覚は群を抜いている。

「今回は曲と詞の関わり合いが密接になってきた。一曲一曲がストーリーになっているんですよ。だからちょうどそれが7曲で7色の虹のようなアルバムですね」(永山マキ)。

「アレンジに関してももっと緻密なことをやっていると思います」(タム)。

 よりカラフルに、『青空とマント』からはモダーン今夜というバンドの多様性が浮かび上がってくる。彼らのアンサンブルは華やかでいながら、そこに哀愁を確かに湛えており、2人のパーカッションが肝となるポリリズミックなリズム、ホーン・セクションやヴァイオリンといった楽器群の豊かな響きが飛び込んでくる。

「前作を聴いた印象だと、わりとカフェ・ミュージックのような静かなライヴを想像されるんですけど、意外と激しくやっているのでびっくりされるんです」(タム)。

 ステージ上でのビッグバンドらしい分厚い音の渦はカオティックでさえあり、いつの間にか付いてしまった彼らのファッショナブルなイメージとは別の顔を見せる。

「だから前作のイメージを払拭したかったというのがあるんです。マキの詞には独特なものがあって、そのちょっとネガティヴだったり暗かったりするのを、私はパッと明るい楽曲で伝えたいと思っているんですけれど、やっぱりファーストを聴いてみんなが言うことは、〈お洒落だな〉とか、〈ジャジーでムーディーで〉とか……そういうスタイルよりも、グッとくる感じとか感動とか、この11人でしか出せない音をめざしていて、いまも正直模索中なんです」(タム)。

「みんな私の書く詞とかに共感してくれて、それを形にしようとしてくれるので、それがすごく嬉しくて。それでこれだけメンバーが多いなかでもまとまりというか、モダーン今夜独自の色が出てきてるんじゃないかなと思います」(マキ)。

「これはマキよりも周りが実感していると思うんですけれど」と前置きしたうえで、タムは「マキのいるときのスタジオといないときのスタジオのムードは違う」と語る。それだけマキの存在感はモダーン今夜の音楽に欠かせないものだ。“青空とマント”の〈ねじをまいてあげる〉という印象的なサビの言葉遣いからも、彼女の独特なセンスが窺えるが、先の彼の言葉にもあるように、そこでモダーン今夜は内省にはまろうとはしない。“海の底”で「波がいろんなリズムで波打ち際に押し寄せていくさま」(タム)を描写したというドラマティックなアレンジからも、詞と音の拮抗は確かに感じ取れる。

「私は人と付き合ったり友達になったりするのであれば、自分の心とか自分の生きてきた道筋に足跡をつけてほしいし、相手にもつけたいっていうのがある。いまは愛想笑いばっかりでそういうことってなかなかできにくくなっているけれど、じゃあどうやったらあなたの道に足跡をつけられるんだろうって」(マキ)。

 ラストの“もぐら”で紡がれている言葉についてマキはそのように説明する。モダーン今夜のもっとも興味深いのは、ビッグバンドなのにひとりの世界を抽出しているところなのかもしれない。実際のところ僕たちが生きる現実は〈物語〉ほど単純ではなくて、もっと複雑な因果関係でもって絡み合っているけれど、そのもどかしさをそのまま、モダーン今夜の音楽は、熱狂とグルーヴで包みこんで伝えようとする。本作におけるモダーン今夜のサウンドは、マキのパーソナリティーと世界観がバンドのライヴ感に溶け合い、とても味わい深い。

PROFILE

モダーン今夜
メンバーは、永山マキ(ヴォーカル)、タム(キーボード)、三井俊治(ギター)、高橋コータ(ベース)、内海勇樹(ドラムス)、井田安彦(トランペット)、坂野あゆみ(アルト・サックス)、山田浩平(テナー・サックス)、麦野しほ(ヴァイオリン)、岡部量平、石橋ゆうこ(共にパーカッション)からなる11人。永山が大学在学中に結成したバンドを母体に、2002年秋より都内ライヴハウスを中心に活動を開始する。2003年秋にはファースト・ミニ・アルバム『赤い夜の足音』でデビュー。ダイナミックかつ安定した演奏と、ラテンやジャズ、ボサノヴァや歌謡曲などを横断した音楽性が話題となる。このたびセカンド・ミニ・アルバム『青空とマント』(MOTEL BLEU)が12月8日にリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年12月16日 16:00

更新: 2005年01月13日 18:04

ソース: 『bounce』 260号(2004/11/25)

文/駒井憲嗣