インタビュー

100s


 100sのファースト・アルバム『OZ』が出来ていく過程は、100sという〈バンド〉が出来ていく過程である。

「実作業に取りかかるまでの話し合いのほうが長かったですね。状況部屋(中村一義の部屋)に集まってみんなでアイデアを出し合って。それがどんどん曲とか音になっていった。始めから曲数も曲順も決めて世界観ありきで作っていったんで」(中村一義)。

「デモ作っていったらそういう話になってたり、普通に鍋したり飲んでたりしても結局最終的にはそういう話になってるんですよね、いつの間にか」(池田貴史)。

「一触即発ムードのときもあるからね。〈テメェ!〉みたいな。でも大体バンド・マスコット(池田)が和ませてくれて(笑)」(町田昌弘)。

 いまのところ中村一義名義のラスト・アルバムである『100s』から本作へは、その作品の構造(3部構成)やバンド・メンバー6人を含め連続しているわけだが、ディスカッションの濃度が飛躍的な〈結束感〉をもたらしているという意味で、『OZ』はまさしく100sの〈デビュー・アルバム〉だ。

「みんなが集まって一人でも欠けてるとイヤだもんね。誰か来ないとブーブー言ってる。〈なんでアイツ来ないんだ。クビだクビ〉って。普通はあんまり思わないよね、逆に言うと」(町田)。

「『100s』はみんなのポップな部分を合わせて何ができるかっていう考えだったんだけど、今回はもうすべてをさらけだしてそのなかでの共有性というのはなんだろうっていう。そこにはグロい部分も生々しい部分もあるし。100sが考えるバンドの形ってどういうものかっていうのをもう一回、一から作り直した感はありますよね。一人一人の役割にしても。ドラムなんかもう普通考えられないドラム・プレイだったりとか(笑)」(中村)。

『OZ』に詰まった笑ってしまうぐらい〈あり得ないアレンジ〉の数々はメンバー各人のキャラクターの反映であり、それらすべてには〈OZ〉という物語を肉付けするうえでの必然性が宿っている。まるでザ・フーやビートルズが発表した最高のコンセプト・アルバムのように。中村から提示された〈OZ〉という構想はどんなものなんだろう?
 
「今回は社会的な一般論を取り払ったところっていうか。世情的にも〈もう一般論つったって〉というのもあったし。一般論のモロさというか陳腐さ? 夢の部分だったり思想だったりする部分から現実が作られていくっていうのも実際にあるから。良い悪いじゃなくて、それを表す作品を作んなきゃダメかなっていう。だから〈オズの魔法使い〉も現実の世界と夢の世界を行ったり来たりするような物語だし」(中村)。

 中村が、いや、100sの6人が膨大なディスカッションとスタジオ・ワークの末に構築した〈OZ〉という物語。それは単なるファンタジーではなく、ロックという肉体によって提示された、〈戦時下〉である混迷の現代への力強いアンサーである。〈あのバカが捨てた僅かな火種、この世界を包む炎へ〉という言葉をストリングスとピアノがホーリーに包む“(For)Anthem”の超越的な美しさを体感してほしい。聴くたびに膨張する〈OZ〉という物語宇宙は、現実を捉える新たなフレームを与えてくれるはずだ。

「独裁的なものへの言及は『ERA』のときに僕個人でやっちゃったので。いまそれをやっちゃうと〈リアクション〉になっちゃうんですよね。結局一元的な話になっちゃう。何が根本的に違うのかって考えていくと、やっぱりもっと拡がっていくし、歴史的なことやこれから来る未来のことといった時間的な距離感も必要になる。そういう日頃ボンヤリ考えてることを〈OZ〉っていうキーワードに集約させるのがすごい大変でしたね。で、そういうことをメンバーみんなが共有してて、そのうえで現実でどう立ち居振る舞うべきかっていうのを一人一人が考えて音にしてるわけなんで。〈意識〉のない音は一切入ってないアルバムだなって思うんですよね」(中村)。

PROFILE

100s
中村一義(ヴォーカル/ギター)、池田貴史(キーボード)、町田昌弘(ギター)、小野眞一(ギター)、山口寛雄(ベース)、玉田豊夢(ドラムス)からなるバンド。2001年7月、〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001〉での共演を契機に、その後レコーディングに入り、中村一義名義のシングル“キャノンボール”“セブンスター”“新世界”と、アルバム『100s』をリリース。力強いバンド・サウンドを武器に、全国ツアーを成功させ、2003年には夏フェスで観客を大いに湧かせる。今年7月にはバンド名義初となるシングル“A/やさしいライオン”を、10月にはセカンド・シングル“Honeycom.ware/B.O.K”を発表。2005年1月13日にファースト・アルバム『OZ』(東芝EMI)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年01月13日 17:00

更新: 2005年01月13日 17:57

ソース: 『bounce』 261号(2004/12/25)

文/内田 暁男