インタビュー

T.I.


〈You Are The Next〉ってもゴールドバーグのキメ台詞じゃない。引退したジェイ・ZがこのT.I.に投げかけた言葉だ。果たして彼がどういう意味においてネクストなのか。その解答は疑いなく彼のニュー・アルバム『Urban Legend』に隠されているし、2004年を通じて彼が繰り広げてきた華々しい客演の数々(トゥイスタ、ブランディ、デスティニーズ・チャイルド、ネリー、シアラ……)を羅列してみれば、おおよそ想像がつくことでもある。同時にそのブレイクはジュヴィナイルやトリック・ダディといったサウス勢再躍進の大波に上手く乗った形でもあるが、当の本人は「サウスはずっと熱かったのが、よそからもやっと注目を浴びるようになっただけだよ」とクールに語り、「NYだろうとどこだろうと、オレはオレのやり方を見せる」とも言い切る。

 今回が本邦初登場になるとはいえ、T.I.はもちろん新人ではない。子供の頃からアウトキャストやNWA、スカーフェイス、2ライヴ・クルーらに憧れ、学校をドロップアウトした後にハスリングよりもラップで生きていくことを選んだ彼は、まず2000年にアリスタと契約。筆者が知る限りではP.A.の“Down Flat”にT.I.P.名義で参加したのがその初登場となる。翌2001年には初のアルバム『I'm Serious』をリリースしたが、彼はやがてみずからレーベルを去ることになる。

「オレのスタイルを理解してないみたいだし、力を入れる気もないような感じだったからね。だから、自分の金で音楽を作りはじめて……けっこう犠牲は払ってきたよ」。

 そんな苦闘を経て、2003年の『Trap Muzik』に漕ぎ着けたT.I.は同作の大ヒットから今回の『Urban Legend』までの1年を駆け抜けた。数々の大舞台を経験したことで得た自信は、ランDMC“King Of Rock”をネタ使いしたアルバムの冒頭曲“Tha King”から漲っている。ちなみに同曲はT.I.の宿敵リル・フリップのスマッシュ・ヒット“Game Over”もプロデュースしたフューリーの手によるものだが……。

「リル・フリップ? 知らねーな。聞こえないよ(笑)」。

 はい。ともかく、そんな熱い導入部から次々と最高レヴェルの楽曲が押し寄せるわけだ。とりわけ大興奮を禁じ得ないのはスウィズ・ビーツ制作の“Bring Em Out”だろう。同曲のフックはジェイ・Zの“What More Can I Say”からセンテンスをサンプリングして敷き詰めたものだが、それはあたかも王位の禅譲のように響く。

「ジェイ・Zはオレのメンターさ。オレがいまから手に入れようとしているものを、すでに全部手にしている人だからな。彼からは何でも最初に手をつけること、自分が本気で信じていることをすれば皆がついてくるってことなんかを学んだよ」。

 南部スタイルのバウンスのみならずロウ・ビートの曲にも易々と跨がるスキルフルなライミングは、もしかしたらジガから吸収したのかもしれない。モテそうな面構えも重要だが、NYでも人気を獲得した秘訣はそのあたりにもあるはずだ。

「誰でも何かしら共感できる部分があるはずだから、それを感じ取ってほしい。生活している場所が全然違っても、感情移入できる点が必ずあると思うんだよ。聴く人は自分なりにそれを探してほしいね」。

 冒頭の文をやや訂正しなければならない。『Urban Legend』には、T.I.の凄まじい魅力が隠されているどころか全編に渡ってひけらかされているのだから。このアルバムを聴く人は、次のキングがいよいよ王位争奪戦にリングインする瞬間を目にしているに等しい、と言い切ってしまおう。

「アウトキャスト、ジェイ・Z、ビギー、2パック……上まで行った人たちも同じようにストリート出身なんだ。オレも何にもないところからここまで来たんだぜ。どこまで行けるのか、とことん行ってやろうじゃないか、っていう気持ちさ」。

PROFILE

T.I.
アトランタ出身、現在23歳のラッパー。P.A.に見い出されてアリスタと契約、2001年にアルバム『I'm Serious』でデビュー。2003年には自身のレーベル=グランド・ハッスルを設立し、アトランティックを通じてリリースしたセカンド・アルバム『Trap Muzik』が全米チャート4位をマーク。“24's”“Rubberband Man”などのシングルが連続ヒットを記録して一躍ブレイクを果たす。2004年には、トゥイスタ、ネリー、シアラ、デスティニーズ・チャイルドといった客演の多さやリル・フリップとのビーフなど多方面で話題を撒く。このたびサード・アルバム『Urban Legend』(Grand Hustle/Atlantic/ワーナー)がリリースされたばかりで、2005年1月19日にはその日本盤が登場する予定。

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掲載: 2005年01月20日 13:00

更新: 2005年01月20日 18:17

ソース: 『bounce』 261号(2004/12/25)

文/出嶌 孝次