グディングス・リナ
2003年にリリースしたファースト・アルバム『サーカスの娘』や、大沢伸一をはじめDJ BAKU、アルファ、ロブ・スミス(スミス&マイティ)といった豪華リミキサー陣が参加したリミックス・アルバム『A GIRL FROM A CIRCUS -REMIXES-』における、さまざまな音楽要素を呑み込んだ自由奔放なアプローチが耳の肥えた音楽関係者はもちろん、国内外のリスナーからも高い評価を得てきたG.RINA。まずDJとして音楽のキャリアをスタートさせたという彼女は「古いレコードをいっぱい買ったりしているうちに、ヒップホップの影響もあってMPCで音を作ったり、サンプリングしたりするのが楽しくなって」次第に曲作りへと興味が向いていったという、昨今の女性アーティストとしては珍しいタイプ。トラック制作と並行して活動する〈DJセニョリーナ〉名義としては「下品な感じというか(笑)、腰を揺らす音楽」をスピンしている。その一方で、待望のセカンド・アルバム『漂流上手』では、ジャズ、エレクトロニカ、ダブ、テクノ、エスニックといった多種多様なエッセンスを内包しつつもポップスの軸から離れない、メロディアスな音世界を提示するというオリジナルな才能を見せつけているのだ。
「アルバムは、ほんとにポップなものにしたいなと思っていて。それでいて、普遍性のあるものであってほしいんです。アレンジなどはその時代の流れで変わってくると思うけど、メロディーは時間の流れに耐えうるものであってほしいと思うので、特に重きを置いて作りましたね」。
そして、この音と共に歌われるのはヒップホップばりに韻を踏んだキャッチーなリリックだったり、かと思えばしっとりとした乙女心やストレートな思いを綴ったセンシティヴなムード溢れるものなど、その音同様に掴みどころのない特異なバランスを保った世界観だったりする。そんな音×言葉がガッチリと融合しちゃうもんだから、その濃度の濃さといったらハンパじゃないわけで……。絶妙のバランス感覚で自在に自身の世界を表現する彼女はやっぱり『漂流上手』なのだろうか?
「実はタイトルは後付けなんですけど、漂流上手になりたいなあ……って(笑)。自分で〈上手〉と言っていると、まるで漂流するのが得意な人のように思われそうだけどほんとは不器用な部分が多いし、下手だからこそ自分から〈上手〉だって言い切っちゃえ!っていう。皮肉というかあまのじゃくな感じで。私は東京で生まれ育っているので故郷がないというか、ここからもうどこにも行けないっていう意識があるんですよ。生まれ育ちながらも、ここが居場所だとはたしてちゃんと言えるのかな?と思いながら音楽活動や生活をしたりしていて……。だからこそ、都会での居場所の不確かさや常に流動的でかりそめの感じを表現したいなと。アルバムも結果的にそんな雰囲気になったと思いますね。曲のひとつひとつがいろんなカタチでの戸惑いなんです」。
確かに、都会の持つ曖昧な雰囲気や頼りなさは一度でも都会に触れたことのある人ならば感じたことのある感覚かもしれない。〈気もそぞろ、あなたを探してるふりして/いつだってわたしはわたしを探してた〉(“東京のジプシー”)という、アルバムのなかでもひときわ印象的な言葉がリアリティーを持って迫ってくる気がする。そう、いつだってみんな漂流してるのだ。だからこそG.RINAから溢れ出てくる音楽はごく自然に、私たちの風景に溶け込むように奏でられるのだろう。
PROFILE
G.RINA
76年、東京生まれ。歌や詞曲、トラック制作をすべて自身で手掛けるマルチ・クリエイター。DJとして出演していたイヴェント〈Two,Three,Breaks!〉が2000年にリリースした同名コンピにてWorld Supreme Funky Fellows 2102と共演。2002年の『〒』を皮切りに7インチ・シングルのリリースを開始し、2003年のファースト・アルバム『サーカスの娘』で脚光を浴びる。2004年には同作のリミックス・アルバム『A GIRL FROM A CIRCUS -REMIXES-』をリリース。前後してPLAYAやビガーブッシュ、Rub-A-Dub Marketらの作品にシンガー/トラックメイカーとして参加。2005年1月19日にセカンド・アルバム『漂流上手』(ANGEL'S EGG)がリリースされる。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2005年01月27日 17:00
更新: 2005年02月03日 18:21
ソース: 『bounce』 261号(2004/12/25)
文/aokinoko