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インタビュー

MAKAI

ファースト・アルバムにして『Frontier』! ジャズ/クロスオーヴァー界に新星現る! 


 79年生まれ、現在25歳の次世代アーティスト。美しく端正にクォンタイズされたビートとソリストの奏でる甘くアグレッシヴな生音を両腕に、ジャズのイディオムを咀嚼/吸収。平淡なループ感や希薄な季節感には正面から戦いを挑み、目覚めの水にも明け方のペルノーにもよく合う〈はじまり〉を鳴らすMAKAI。先行12インチの“Move Your Feelings”は須永辰緒や中塚武らも絶賛……などと書くと、まさに理想のジャズ/クロスオーヴァーを奏でる優等生的な横顔が浮かぶかと思うが、しかしこのMAKAI、そのクリエイティヴィティーが意外な方向へと突き抜けていた。

「ミュージシャンには一度も逢っていません。一緒にやってるマニピュレーターがボストンの音楽学校の卒業生で、演奏には彼の同級生や後輩を起用しているので、このCDに入っている音はほとんどがネットの回線を通ったものなんです。もちろん僕には欲しい音のヴィジョンがあるので、そこはメールで細かく指示をして。はい、打ち合わせはしたけど、打ち上げはまだですね(笑)」。

 つまりはケーブルのなかのニュー〈Frontier〉。たとえば60年代にフルクサスが提案したメール・アートは、あくまで偶発性の快感に則ったものだったのに対し、MAKAIのソレは遠距離恋愛的な馴れ合いもなく、完全なる表現への手法として繰り返されている。それは決してインスタントなものではないし、むしろ苦労の連続であったことは想像に容易いが、それが手法の先鋭性を超えた間口の広いポップ・ミュージックへと結びついているのだから、MAKAIはその意味でもニュー〈Frontier〉を開拓したと言える。

「間口の広さというのは重要ですね。自分のなかでは〈○○すぎず〉というのがテーマになっていて、ひとつのジャンルをひとつのシーンへ向けて突き詰めるより、自分という個人を突き詰めたいというのがあるんです。ここには僕が影響を受けたいろんな音楽の片鱗や、対訳の厳しい恋愛観までが入り乱れていて(笑)、それらを全部ひっくるめて、これがMAKAIの音楽だと言えますね」。

 ジャズやラテンの電化、そしてAORトロニカともいえるクールな音像が詰まった本作だが、特に印象的なのは、ラストを飾るトッド・ラングレンのカヴァー“A Dream Goes On Forever”だ。

「この曲をやるというのは当初から決めてました。反戦の意志を含んだ歌詞は時代的にも有効だと思ったし、それを女性が歌うことで、また自分なりの表現ができると思ったんです。ヴォーカルはアメリカ人、フルートはイスラエル人、キックには心臓の音を使っていて、これを聴いた人が少しでも〈生きる〉ということの意味を想ってくれたらいいですね。音楽をやるからには〈伝える〉ということはすごく大切。その部分だけは〈すぎず〉を外してもいいかと思うんです」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年03月10日 12:00

更新: 2005年03月10日 14:24

ソース: 『bounce』 262号(2005/2/25)

文/江森 丈晃