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インタビュー

A Hundred Birds


 総勢なんと30名。A Hundred Birds(以下AHB)は大阪を拠点に活動する〈ダンス・ミュージック・オーケストラ〉だ。彼らはすでにフランソワK主宰のレーベル=ウェイヴから3枚のEPを発表。アンジェリーク・キジョーの曲をカヴァーした“Batonga”、オリジナルの“Georgia”、デトロイト・テクノ・アンセムを〈演奏〉した“Jaguar”……何層ものストリングスが交差してディスコ~ハウスのグルーヴに絡みつく楽曲群は、国内外で特大のクラブ・ヒットを記録した。その履歴や壮麗なサウンドからは、商業的かつ緻密なレコーディング・プロジェクトを想像していたが、そもそもオーケストラを開始したキッカケは〈ノリ〉だった。

「97年、ちょうどニューヨリカン・ソウルのアルバムが出た時期で。大阪のQOOという客席が結構たくさんあったクラブで〈ここの客席を使ったらオーケストラが演奏できるなあ〉ってロビンと話していて。じ
ゃあ、やってみよかぁって」(DJ YOKU)。

 当時大阪に住んでいたフェイズ・アクションのロビン・リーと、ハウスDJのYOKUを中心に、AHBはライヴ・バンドとしてスタートした。マルチ・プレイヤーでクラシック音楽に対する素養があったロビンが指揮をとり、音大生や身内のプレイヤーをかき集めてクリスマス・パーティーで初ライヴを披露。演奏したのはサルソウル・オーケストラの“Runaway”やケニー・ボビアンのゴスペル・ハウス調ナンバー“Why We Sing”のカヴァーだったそう。翌年ロビンがUKに帰国、その後AHBは独自の変化を遂げ、新旧のディスコ~ハウスのカヴァーからオリジナルまで1時間半ノンストップで演奏するというライヴ・スタイルを確立する。

「ある時期からYOKUさんが指揮をすることになった。指揮と言っていいのか……AHBのライヴではステージにドラムとベースが2組ついて、1曲ずつ(交互に)演奏する。そこでYOKUさんはDJがレコードを操るようにスイッチングを(指示)している。曲間でロング・ミックスするような曲もあれば、パッと切り替わる曲も」(武内一武)。

「指揮者っていったら、ホンマにやっている人におこがましい(笑)。サルソウル・オーケストラとかはもちろん好きでしたけど、実際に彼らがライヴ演奏している映像なんて観たことなかったし」(YOKU)。

 ライヴでの方法論の模索期から、12インチ盤でのレコーディング経験を経て、初のフル・アルバム『Fly From The Tree』は制作された。楽曲はまず5人のコア・メンバーが持ち寄って全13曲を制作。新録の“BATONGA”で始まり、“GEORGIA”、人気ディープ・ハウス曲“FADE”のカヴァーなども聴くことができる。本作のサウンドはファンクからプログレッシヴ・ハウス調まで、今まで表出しなかったメンバーの多才ぶりを見せている。しかし展開や音の質感においては「大事なポイントは落としてないですね。音のバランスとか、クラブ・ミュージックの音質のルールは守っています」(武内)とのこと。ギターの佐藤タイジ、ヴォーカルのMika Arisaka(Reggae Disco Rockers)らがゲスト参加しているが、こちらも楽曲の中で浮き上がることなく馴染んでいる。

「普通、30人いたら一時的なプロジェクトっぽくやるっていうイメージだと思うんですけれど。みんなの役割分担がうまくできてきたんですね。100羽の鳥から成る〈バンド〉になっていますから」(武内)。

 まぎれもないクラブ・サウンドだが、DJ主導のバンドにありがちだったミュージシャンシップの埋没は感じない。この希有なサウンドの〈渦の中心〉、YOKUがふと語った言葉はなんともDJらしくないようでいて、しかしやはりDJらしい音楽への献身が感じられた。

「今は自分がかけたいものを作るっていうよりも、みんなで作れるもので良いものができるといいなっていう感じ。楽しいですね、みんなでワイワイやっているのは(笑)」(YOKU)。

PROFILE

A Hundred Birds
96年、関西ハウス・シーンのリーダー的存在であるDJ YOKUが中心となり大阪にて結成される。現在は、SUIKAでも活動中の武内一武(キーボード)、井戸本勝裕(ドラムス/パーカッション)、田村成紀(ギター)、佐藤禎(チェロ/ストリングス・アレンジ)をはじめとする数名をメインに活動中だが、毎年クリスマス・イヴに行われるオーケストラ編成でのライヴには総勢30人のメンバーが集うという大所帯グループでもある。2000年より、フランソワKが主宰するレーベル=ウェイヴよりEPをリリースするなど、国内に限らず活動の幅を拡げていく。このたび、ファースト・アルバム『Fly From The Tree』(GUT)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年03月17日 13:00

更新: 2005年03月17日 18:54

ソース: 『bounce』 262号(2005/2/25)

文/原田 亮