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インタビュー

Laurent Garnier

フレンチ・テクノ界の大御所DJが4年ぶりのアルバムで提示した〈DJでは語れないこと〉


 ダンス・ミュージックの土壌が確立されているはずのヨーロッパやアメリカですら、DJの地位はいまだ低いというのが現状だ。それは噂や勝手な憶測による安易な定義ではなく、〈世界一のテクノDJ〉と称されるローラン・ガルニエが口にするのだから事実だろうし、DJを音楽的評価の対象にまで導いたパイオニアゆえの苦悩だともいえる。そんな彼も、10周年を迎えた自身のレーベル=F・コミュニケーションズの運営、フィリックス・ダ・ハウスキャットやシステム7などのリミックスなど作り手としての活動も目立つようになり、一時はDJを引退するなんて騒がれた。しかし、昨年末に来日(全国4か所ツアー)した時のプレイやフロアの一体感を目の当たりにしたら、この男がいかに優れたDJであるのかを再認識せざる得ない。

「やはり活動の主軸はDJになる。いちばん大切なのはクラブDJとしてだけでなく、人と音楽をシェアするということなんだ。もしDJでは語れないことがあれば、それは自分の作品で表現するようにしている」。

 2003年に登場したミックスCD『Excess Luggage』は、〈Sonar〉でのライヴ、デトロイト・ミックス、自身のウェブ・ラジオ〈PBB〉エディットの3部構成という、まさにDJ冥利に尽きる内容だった。だからこそ、本人が言う「DJでは語れないこと」が知りたいのだ。その回答として提示されたのが、前作から約4年ぶり4枚目のアルバムとなる『The Cloud Making Machine』ではないだろうか。本作は、38歳になる彼の10代から現在までのキャリアを集大成したともいえる作品だ。

「毎晩DJをやっていた18歳の頃のアルバムは、フロアを意識した内容だったと思う。でも年齢を重ねるうちに、世の中のことに対して敏感になり、直接的に影響されるようになった。今回は自分が成長して進化してきた道程を示している」。

 また、アルバム制作直前まで携わっていたというショート・フィルムや映画のサントラでの経験も今作には反映されているという。

「シネマティックな雰囲気が出ているはず。聴いた印象はディープでダークかもしれないけど、限定したストーリーは提示していないよ。あくまでもフォーマットのひとつとしての世界観だから、自由にイメージしてほしい」。

 派手な4つ打ちの楽曲がまったく存在しない今作。そこには、膨大な数の音楽を聴き続けてきたローランが、ストイックに音楽と向き合い、DJの新しい可能性に挑む姿勢すら感じ取ることができる。

「僕はずっと、優れた音楽のために闘っているつもりだ。このアルバムはローラン・ガルニエの一側面であってすべてではない。DJ、プロデュース、リミックスといったいままでの流れやキャリアのなかから生まれた作品だからね」。

 本編だけでなく、前後のストーリーの意味まで考慮するあたりは、さすがフランスの伊達男といった感じではないか。
▼ローラン・ガルニエの近作。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年03月24日 12:00

更新: 2005年03月24日 18:50

ソース: 『bounce』 262号(2005/2/25)

文/鈴木 貴視