インタビュー

ASA-CHANG & 巡礼

その噂が世界中に拡がるなか、アノ3人が新作を引っ提げて帰ってきた。ポップでエモーショナルでユニークで……こんなサウンド、聴いたことある?


 パーカッショニストのASA-CHANG、プログラマー/ギタリストの浦山秀彦、タブラ奏者のU-zhaanという超変則的メンバーによって作られる極めて独特なサウンドで、小難しく分析を試みるマニアックな音楽ファンから、ポップでキュートなその佇まいを愛して止まない女の子の心までを虜にしているASA-CHANG & 巡礼。アヴァロン・フィールドのステージに浴衣姿でひょっこり現れて胡座座りしながら摩訶不思議なサウンドを放出する姿が〈フジロック〉の風物詩となったり、丸井のTVCMでタブラを叩くASA-CHANGの姿をご覧になった方も多いだろう。また、2001年にリリースされた驚愕の2作目『花』の表題曲がヨーロッパを中心に世界中を震撼させて各メディアで大絶賛、フランスでは映画「青いパパイヤの香り」で知られるトラン・アン・ユン監督が手掛けた大手コスメショップのCMにその“花”が使用されるなど、海の向こうでは大変なことになっているようだ。で、まずは巡礼サウンドの核であり大きな特徴である複雑なリズム・ストラクチャー、声とリズムのユニゾンという世紀の大発見(?)についてASA-CHANGに訊いてみた。

「太鼓覚える時って、例えば日本の太鼓だと〈テンツクッテンツクッ〉って口伝で覚えていくっていうのが多いんですよね。それで太鼓から言葉が出てきてるのか、言葉から太鼓の音が鳴ってるのか、どちらとも言えないようなシンクロ感っていうアイデアがある日ポッと出てきちゃいましたねぇ」というように、世界中どこを探してもまったく似たサウンドが見当たらなく、突然変異として誕生したのがASA-CHANG & 巡礼だ。

 さて、全8曲がリード曲とも言える大傑作に仕上がった新作『みんなのジュンレイ』だが、クラムボンの原田郁子が〈声〉で参加した前作『つぎねぷ』の表題曲は〈みんなのラッパ篇〉としてまったく違った風景に変わり、小泉今日子をフィーチャーした先行シングル“背中”は、「今の巡礼と今の小泉今日子の存在が〈赤裸々に〉という言葉を使ってもいいぐらいまで出ちゃった」という〈みんなのジュンレイ篇〉としてアレンジ・リミックスが施され、“花”にも連なる、溜め息が洩れるほどの美しい仕上がりとなっている。そして「巡礼に求められてる音って〈聴いたことのない音〉とか〈衝撃〉とかいう部分があると思うんですけど、彼の声って存在感があるんで音像を考えた時、電子音を入れる気にはならなかった」という、巡礼の新境地ともいえるハナレグミをフィーチャーした永遠の青春ブルース的先行シングル“カな”のロング・ヴァージョンも収録。ここではバックで、〈弾けない〉ASA-CHANGがラフで味わい深いアコースティック・ギターを披露しているのだが、「超密に精度の高いエディットをする部分と、幼稚とか稚拙とかを通り越したもっとヘンな部分とが同居・共存している」というところに巡礼サウンドの魅力の一つがあるのは間違いないだろう。

 そして今作最大の問題曲、というか大爆笑必至なのがピエール瀧とASA-CHANGが詞を共作した、戦前歌謡曲をパロったようなナンセンス数え歌“日の出マーチ”だ。

「“花”とかに代表されるような曲ばっかりだと〈重すぎるな〉って思ったんで、1曲ボーンとおもしろい落とし穴を作ろうかなと。落とし穴っていうか、逆バンジーみたいな曲ですけどね(笑)」。

「聴く人の喜怒哀楽、その間の感情もいっぱいあるわけで、そのどっかに1曲1曲がハマっていく感じ。その感情のどこかにある、押しちゃいけないボタンを押すみたいな音楽をこれからも作っていきたいですね」――あとは日常の中でこれを読んでいるあなたが、お手軽で楽しくて、かつちょっぴり危険な旅に連れていってくれる『みんなのジュンレイ』のボタンを押すだけだ。
▼ASA-CHANG & 巡礼の作品を紹介。

▼『みんなのジュンレイ』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2005年03月24日 12:00

更新: 2005年03月31日 19:03

ソース: 『bounce』 262号(2005/2/25)

文/ダイサク・ジョビン