Richie Spice
新世代ラスタ・ムーヴメントを牽引し、一躍ブライテスト・ホープの座に躍り出たリッチー・スパイス。待望の新作のなかで、彼は何を伝えようとしているのだろう?
〈リッチー・スパイス。この人はくる。必ず、ビッグになる。ならなかったら、ライターを辞めます〉。本誌の短期集中(短命?)レゲエ・コラム、〈Irie NY〉でこう書いたのが8か月前。おーほっほっほ。ここで私は高笑いをする。ヤな奴になる。明日の我が身も保証できないフリーランス・ライターだけど、これは当てた。もう、レゲエ界の細木数子と呼んでもらおうかと。
……いや、マジメな話。ここ半年のリッチーの躍進ぶりは目覚ましく、ジャマイカの新生ラスタ・スターとしてトップに躍り出たと思ったら、インターナショナル方面もガンガンに展開中。盛り上がり方としては〈New〉だが、彼は新人ではない。活動歴8年、2000年にはデビュー・アルバム『Universal』も出している。この作品でエグゼクティヴ・プロデューサーを務めたのが兄のプライヤーズ。ラヴソングが得意なスパナー・バナーも兄。やはり彼らに触発されてシンガーになったのだろうか?
「自然にプロになっていた、という感じだね。兄さんたちは俺が歌えることを知っていたけど、モノになるかはわからないと思っていたみたい」。
とはいえ、スタジオを連れ回したのはスパナー兄だそう。自分のスタイルを確立するにあたり目標にしたアーティストを訊いたところ、「一人に絞るのは難しいね。リッチー・スパイスは一つの歌い方だけでなく、いろいろな歌い方をするから。まぁ、ボブ・マーリーやピーター・トッシュは小さい頃から聴いていたので染みついているかもね」との答え。そう、彼の最大の売りはコンシャスなリリックと、自在に変わる歌声の色艶だ。歌い方、雰囲気から〈グレゴリー・アイザックスの再来〉とも言われる。「彼の歌い方に似ている、と言われればそういう見方もあるかな、とは思う。他の人とは違う声を持っている点とか。彼は好きなシンガーの一人だから、光栄だよ。デニス・ブラウンも引き合いに出されるね」と本人はクールにいなす。
リッチー・スパイス人気は、もといフィフス・エレメント人気でもある。チャック・フェンダ、アンソニー・クルーズらを抱える新興レーベルで、今やジャマイカでいちばんアツい集団と目されている。リッチーが加入したのは2002年。
「当時、俺もフェンダもNYとキングストンを行き来していて、ある時彼が〈帰る日を1日延ばしてでも会ったほうがいい人がいる〉って言い出したんだ」。
そして出会ったのが、フィフス・エレメントのボス/プロデューサーのデヴォン・ウィートレー。この3人が揃わなかったら、今のニュー・ラスタ・ブームが違っていたであろうことを考えると、運命の出会いだったのだろう。ラスタファリズムでいうところのジャー・ガイダンス。リッチーはラスタだが、曲中で延々とジャーを崇めたり、難しい教義を垂れ流したりはしない。信仰とアーティスト性をどうシンクロさせているか、と訊ねた。
「ラスタファリズムは音楽と同じで、運命どおり、自然に入っていくものなんだ。ドレッド・ロックスを伸ばし始めたのは99年頃からだ。ラスタとしての正義を曲にしてみんなの前で歌うことが俺の使命だけど、世界中の人に音楽を届けたいから、ジャマイカの人にしかわからないような言い回しはしない」。
その集大成が海外では昨年の11月末にリリースされ、このたび日本盤としても登場したニュー・アルバム『Spice In Your Life』だ。ロングラン・ヒットの“Earth A Run Red”ほか、“Folly LIving”“Marijuana”など、すでにジャマイカでは大人気の曲がぎっしりと詰まっている。
「アルバムの反応はかなりいいよ。みんながずっと聴きたいと思っていたタイプの曲だからだと思う」。
リッチー、フェンダを筆頭に、ジャー・キュアやジャー・メイソン、アイ・ウェインなどなどラスタ系のニューカマーがヒットを飛ばしたことについては、「素晴らしいことだ。自分が頑張ってきたことが認められたのも、ムーヴメントの一部を担っているのも嬉しい」。
彼の曲には〈ユース〉という言葉がよく出てくる。子供や若い世代に向けた曲が多い理由を確認しておこう。
「未来をいい方向に発展させ、より良い世界を見たかったら子供を大切に育てる以外に方法はない。人間全員が等しく扱われるような世界を実現しないと。だから、俺は彼らに向かってポジティヴなことを歌いかけるんだ」。
▼関連盤を紹介。
リッチー・スパイスの2000年作『Universal』(Heartbeat)
スパナー・バナーの2001年作『Real Love』(Heartbeat)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2005年04月07日 13:00
更新: 2005年04月07日 19:57
ソース: 『bounce』 263号(2005/3/25)
文/池城 美菜子