インタビュー

BEAT PHARMACY

アトモスフェリックなダブ・スペースを拡張する2人

〈Deep Space〉の深淵に踏み出せば……


 ここ数年、以前から取り組んできたダブやテクノへのアプローチをより深化させ、カタチにしてきたフランソワ・ケヴォーキアン(御歳51歳!)ですが、このたび、彼が独自の切り口でダブをプレイするパーティー〈Deep Space〉より同名のレーベルを設立。その第1弾アーティストとしてアルバム『Earthly Delights』をリリースしたのが、NY在住のブレンドン・モラー(プロダクション)と東京在住のシゲル・タナブ(ギター)による2人組、ビート・ファーマシーです。つい先日、日本で行われた出張版〈Deep Space〉ツアーにてライヴを披露、観衆を強烈なダビー&スペイシー・サウンドで魅了したばかりの彼らに話を訊きました。

「大学を出て、英語教師の仕事をしてたんだ。その頃にデ・ラ・ソウルのようなヒップホップや、ハッピー・マンデーズのようなロックに興味を持って。リズム・マシーンが欲しかったんだけれど、南アフリカでは機材が高くてね。それでNYに住むことにしたんだ。あと、(音楽をやるために)教師の仕事を辞めてしまうと兵役が免除されなくなるから、それを逃れるためにもね」(ブレンドン:以下同)。

 南アフリカ出身のブレンドンがNYに移住した後にビート・ファーマシーは始動、「フェラ・クティやリー・ペリーのような音楽と、エレクトロニック・ミュージックを合体したものをめざしてスタートした」とのこと。彼らのサウンドは、ダブ~レゲエのベース・サウンドを基盤にしながら、ハウス、テクノ、ブレイクビーツなどのフォーマットによって再構築されており、その意味ではドイツのリズム&サウンドなどにも近い様式を持っています。その証左か、今回のアルバムには、リズム&サウンドの作品にも参加しているベルリン在住のティキマンことポールSt・ヒライレが2曲に参加。

「ファンだったから、いっしょにできればと思ってメールを送ったんだ。ベーシック・チャンネル周辺の音楽は、同じグルーヴがただループするだけじゃなくて、その上に〈アトモスフィア〉が広がっているのが非常に魅力的だね。〈Body & Soul〉でのFK(フランソワのこと)もベーシック・チャンネルなんかをかけるようになって、ダビーでサイケデリックな方向に向かったんじゃないかな」。

 彼らのアルバムにおける〈アトモスフィア〉も非常に多彩で、シゲルがアフロビート譲りのギター・リフを刻み、アシッドなシンセ・サウンドを強力なリヴァーブで味付けするなど、曲ごとに彩りを変えながら、一貫して深~い空間へ。つまり〈Deep Space〉のコンセプトをさらに押し広げるような作品になっているのです。そんな彼らにとって、フランソワはどんな存在?

「FKのハードワーカーぶりは非常に尊敬しているよ。今回の来日でも、10時間のフライトの後に、成田からレコード屋に直行していたし。12時間でもテンションを保てる彼のDJプレイのように、僕らもライヴ・パフォーマンスをやっていきたいね」。

 なお、来日ツアーを経て、この号が出る頃にはNYでの凱旋ライヴやマイアミにおける〈ウィンター・ミュージック・カンファレンス〉に出演している(はずの)ビート・ファーマシー。最近はアンクル“Reign”のリミックスも手掛けるなど、その強力な〈アトモスフィア〉は今後、世界中にジワジワと広がっていきそうです。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年04月14日 12:00

更新: 2005年04月14日 18:56

ソース: 『bounce』 263号(2005/3/25)

文/リョウ 原田

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