bonobos
前作『Hover Hover』から約1年4か月。5人組となった彼らの新作『electlyric』は、さらに骨太なグルーヴを備えた、虹より鮮やかなポップ・ナンバー揃い!
〈いちじくの木から教えを学びなさい〉とは聖書にある言葉だけど、〈季節に生かされている〉というのは、誰しも少なからず感じる気分ではないだろうか。まだ寒い2月にふと感じる春のほの暖かい日差し。秋の訪れを前にした、思わず夜空を見上げたくなってしまうような凛とした空気。bo-nobosのセカンド・アルバム『electlyric』が空気を震わせるとき、そうしたかけがえのないシーンがまざまざと蘇ってくる。
「(サポート・メンバーであった)辻くんがようやく正式メンバーになっての1枚目のアルバムということもありますし、今回は全体をとおしてこういう質感の音にしたいというものがありまして」(蔡忠浩、ヴォーカル/ギター)。
「以前から打ち込みとかそういう音の方向にも興味を持っていましたので、それを活かした音楽にしたいなぁって思っていたんです」(佐々木康之、ギター)。
『electlyric』には、シングル“あの言葉、あの光”に続いてのコラボレートとなる朝本浩文のプロデューサー/キーボーディストとしての的確なサポートから、レゲエを中心にロック・フィールドまで数多くのアーティストを手掛けるケヴィン・メトカルフによる音の粒が手に取れそうなマスタリングまで、彼らのこだわりが貫かれている。
「朝本さんは僕らに指針を示してくれる存在で。ジャングルのDJとしての音作りについてもすごく勉強になりました」(松井 泉、パーカッション)。
昨年からのライヴにおける著しい成長もあり、ポリリズミックな“グレープフルーツムーン”、ドラムンベースのリズムを大胆に採り入れた“Floating”など、エレクトロニックなエフェクトの導入が、現在のバンドのダイナミズムを丁寧に浮き彫りにしているところが興味深い。
「“Floating”で、初めて打ち込みと対話しながらレコーディングするっていうことを学びました。なるだけクールにというか」(辻凡人、ドラムス)。
「ドラムが辻くんだから、上モノがどう変わっても、メロディーがどう変化しても、〈このリズム隊だったらどうにでもなるでしょう!〉っていうくらい大きな気持ちになれて、ほんとに気楽にできました」(森本夏子、ベース)。
陽気なパーティーの昂揚に代わり強調された打ち込みと生音の関係性は、bonobosの音楽に新たな風を送っている。ギタリストである佐々木による楽曲が増え、ソングライティングのヴァリエーションが増えたことも大きいだろう。彼が〈エレクトロニカ・エキゾチカ〉と形容する“Asian Lullaby”はバンドとしての懐の深さをよく伝えている。
「曲に対する体内テンポってそれぞれ微妙に違うから、ライヴにしてもレコーディングにしても〈みんなが同じように見つめてやる〉っていうのが重要で。だから向かっている矛先がはっきり見えている作品かな。強いベクトルを感じるんです。それは普段の生活やったり、リハーサルやったり、そういうところから音楽に対する携わり方が、もしかしたらみんな変わってきてるのかなと思うんです」(辻)。
「なるべくヴォーカルも演奏と共にある感じに、並列で同じことを言うようにしたいなと思っていて。ライヴをいっぱいやったというのもあって、僕なりに歌うということをあらためてゆっくり考えることができました。今は何でも歌えるわ……って、そういう気分です」(蔡)。
そんな彼に、ソングライターとしてあらためて自身の楽曲にある季節感を問うと、「方法論にはいろいろ興味はあるんですけれど、僕、曲を作るときはいつもいっしょなんですよ。“春夏秋冬”みたいな曲もありますし(笑)」とあくまで平常感を持って飄々としている。bonobosの丹精を込めたサウンドには、聴き手の思いを拡げてくれる自由さがあり、そこにリスナーみずからの日常が柔らかく炙り出される。その心づくしに、〈音楽よありがとう!〉と素直な気持ちになれるのだ。