インタビュー

Coldplay

人生における解けない謎の答えを手探りで探すコールドプレイ。シンセ・サウンドを大胆に起用した新作『X&Y』は、未知なるものへの彼らなりの解答だ!


 前作『A Rush Of Blood To The Head』を発表した時、コールドプレイの面々は「これに勝るアルバムは作れない」と豪語して憚らなかった。実際に同作は絶賛を浴びて、ファースト・アルバム『Parachutes』のほぼ倍にあたる900万枚(アメリカだけで350万枚)という、昨今のロック・バンドの中では破格のセールスを記録。2部門でグラミー賞も獲得し、デビューからわずか5年でUK勢としては久々の全米制覇を実現した。従ってここに登場する サード・アルバム『X&Y』は、世界が固唾を呑んで見守る本年度最大の話題作なのだが、 本人たちは今回も自信満々だ。

「今度こそ絶対にもう超えられない」と真顔で言うクリス・マーティン(ヴォーカル/ピアノ)に、ジョニー・バックランド(ギター)も頷く。もちろん60曲を用意したというだけに、ハンパじゃないハードワークを要したことは想像に難くない。2002年のツアーの最中に早くも新曲作りを進め、昨年に入ってから過去2作品を共同プロデュースしたケン・ネルソンとレコーディングを開始。

「ファースト・アルバムを作った時はその出来に音楽で食べていけるか否かがかかっていたし、セカンドの時はファーストの成功に見合う結果を出さなければならなかった。でも今回はすでに実力を証明済みでクビになる心配もないし(笑)、100%クリエイティヴな面に専念して最高のアルバムを追求できたよ」(クリス)。

 それだけに手間暇は惜しまず、結果的に当初の予定から約1年リリースが遅れたのだとか。
「僕らの場合、プレッシャーをかけたほうがいい結果を出せるから、自分たちでリリース日を設定したんだ。でもちょっと読みが甘かったね(笑)。完成したかと思うとまた新曲が生まれて、リリースを延期するしかなかったのさ」(ジョニー)。

 では肝心の音はといえば、前々作から前作にかけての進化にも驚かされたが、それを上回るほど大胆に飛躍。前作で限定的に導入したエレクトロニックな手法に無限大の可能性を感じたメンバーは、機材オタクだというベースのガイ・ベリーマンの主導で、ドラマティックなシンセ・サウンドを構築。この数年間に4人が愛聴していた音楽――ブライアン・イーノ、デヴィッド・ボウイ、クラフトワーク、ニュー・オーダー、U2、デペッシュ・モードなどなど――の影響を独自に消化して、80年代色の強いサウンドを披露している。

「もともとこの手の音楽で育った世代だからね」(ジョニー)。

〈踊れるコールドプレイ〉と表現することも可能だろう。 ビッグになっても変化を恐れず、ますます実験性を深めている。

「でも本質的には何も変わっていないし、意識して音を変えているわけでもないんだ。おもしろそうなことに惹かれるままに作っているだけで、相変わらずメロディーとエモーションを最重視してるよ」(クリス)。

 そう、芯にあるのは、緻密に作り込まれた音の重みにも圧倒されない、紛れもないコールドプレイ節。優しくも力強いアンセムとバラードだ。

 また、歌詞に目を転じると、未来もしくは未知なるものへの希望と怖れが全編を通じて交錯。クリスによると、そんな傾向は昨今の不穏な世界情勢に負うところが大きいというが、作詞を担当する彼が昨年父親になったこととも無関係ではあるまい。そして『X&Y』というタイトルもやはり、その〈未知なるもの〉に因んでいるようだ。

「数学でいうXやYは、常に変動する解答を置き換える記号だよね。つまり計算不可能な人生における変数なんだよ。世の中には宇宙や死や生命や、どんなに偉大な頭脳にも解けない謎があるけど、僕たちは必死に解答を探し、自分なりの仮説を立てる。それが、このタイトルが言わんとしていることなんだ」(クリス)。

 壮大なサウンドスケープを提示する本作は、簡単には消化し難いかもしれない。でも、「そのほうがお互いに楽しいだろ?」というクリスの言葉には頷かずにはいられないのである。それに、4月末にはすでに先行シングル“Speed Of Sound”が全米チャート8位に初登場。英国人アーティストのシングルがTOP10圏内にデビューするのは、ビートルズ以来37年ぶりの快挙だ。このペースでスケールアップしていけば、彼らの行く末こそまさに未知数と言えるんじゃないだろうか?
▼コールドプレイのアルバム

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年06月09日 11:00

更新: 2005年06月16日 20:01

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/新谷 洋子