インタビュー

Fat Joe

起死回生の大復活からおよそ1年、ファット・ジョーがいよいよ王座に手を伸ばす! 12年のキャリアを賭した大勝負の行方はどうなる!?


 その実力を思うと決して恵まれているとは言い難かったファット・ジョーの12年に及ぶキャリアは、みずから率いるテラー・スクワッド“Lean Back”の全米No.1ヒットを契機として一気にピークを迎えようとしている。そのあたりはマライア・キャリー“It's Like That(Remix)”やグウェン・ステファニー“Hollaback Girl(Remix)”など、効果的なステージでの客演が相次いでいることに象徴的だし、先日の〈MTV Movie Awards 2005〉におけるレッドカーペット・レポーターへの抜擢(パートナーは「Simple Life」のニコール・リッチー!)にしても、従来のジョーを取り巻く環境からすれば考えられなかった展開だろう。

「本当に神様に感謝してる。何年も下積みをやってきたし、やっと日の目を見ることができたから感慨深いよ。正当に評価されずに終わっちゃうかと思ったりもしたけど、こうしてリスペクトされるようになって嬉しいね。もう待ってられないよ、このまま突進って感じだよ」。

 こうした状況にトドメを刺すのが通算6枚目となる新作『All Or Nothing』だ。当初は昨年11月にリリースされる予定だったものの、この千載一遇の好機に際しては最高のアルバムをもって臨みたいというジョー自身の強い意向もあり、今回のタイミングにまで持ち越されたという。そんな彼の心境は、当初の『Things Of That Nature』から改められたアルバム・タイトルにもストレートに打ち出されている。

「いまの気分はまさにイチかバチか(all or nothing)って感じだね。ここで勝負に出るっていう気分なんだよ。もちろん“Lean Back”のヒットはデカかったけど、俺個人に対する評価はまだ満足のいくものじゃない。ここでその結果を出してやろうって気持ちなのさ。だからこそ、中途半端なものは出したくなかった。今回はマジでいちばんホットなアルバムを出したかったから、何度もスタジオに戻って納得のいくものになるまでやり直したよ」。

 最後の最後まで完璧を期した粘り強い作業の甲斐あって、『All Or Nothing』は期待に違わぬ傑作に仕上がった。アルバムにはネリーが参加したリード・シングル“Get It Poppin'”で依然好調ぶりを示すスコット・ストーチをはじめ、ジャスト・ブレイズ、ティンバランド、スウィズ・ビーツら豪華なプロデューサーが名を連ねているが、それらを差し置いてでもハイライトに挙げるべきは、最多の5曲を手掛けたクール&ドレーとのコラボレートだろう。ゲームの“Hate It Or Love It”によってトップ・プロデューサーの地位を決定づけた彼らは、ザップ“Computer Love”の替え歌も印象的な“So Much More”、最近のネプチューンズの作風を意識したと思われる“I Can Do U”、フックにR・ケリーをフィーチャーした“So Hot”など、その才能を早くから見抜いていたジョーへ感謝の意を表すかのように力の入ったトラックを提供。そのなかには50セントの悪名高き“Piggy Bank”に対するアンサー・ソング“My Fo Fo”も含まれている。

「50へのアンサー・ソングは“My Fo Fo”でおしまいさ。いい音楽を作ることに専念する、それでいいんじゃねえのか? 俺はただいい音楽を作りたいだけなんだよ」。

 ジョーは“My Fo Fo”のイントロで〈I love hip hop, I love this muthafuckin' hip hop game!〉と吠えているが、不毛な争いを嫌う彼は優れた音楽を作ることが50へのもっとも有効な反撃手段であると考えたのだろう。そういった意味でも『All Or Nothing』はまさにジョーのキャリアとメンツを賭けた勝負作であり、文字どおり〈イチかバチか〉の闘いなのである。

▼『All Or Nothing』に参加したアーティストの作品を一部紹介


R・ケリーの最新シングル“In The Kitchen”(Jive)

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掲載: 2005年07月21日 13:00

更新: 2005年07月28日 11:44

ソース: 『bounce』 266号(2005/6/25)

文/高橋 芳朗