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インタビュー

Recloose

地平線の向こうに広がる世界とも大空は繋がっている。リクルースの音楽がソウルフルな息遣いをはじめた


 都市と音楽。世界の音楽アーカイヴに容易にアクセスできる情報化時代にあっても両者の相関関係はいまだ有効らしく、ことデトロイトとテクノの関係においてはその特異性がさんざん語られてきました。じゃあ、デトロイトのアーティストが地元を離れた時にどんな音楽が奏でられるの? リクルースことマット・チコインの新作はそんな疑問に答える傑作のひとつかもしれません。ファースト・アルバム『Cardiology』から4年、ニュージーランドから届けられた待望のセカンド・アルバム『Hiatus On The Horizon』。カール・クレイグ主宰のプラネットEからリリースされたディープな前作から一転、ここではムーディーなホーンと、ブロークン・ビートが弾けています(収録曲“Dust”はすでにジャイルズ・ピーターソンがヘヴィー・プレイ)。まず、〈地平線上の隔絶〉というタイトルの意味について尋ねると……。

「僕はデトロイトを出てからしばらく隔絶された状態になっていたし、地球の反対側に移ったから。それと、これは少しアイロニックな意味もある。僕は〈ニュージーランドはトロピカルな楽園だ〉という神話を遊んでいるんだよ。アートワークの花もそう。実際、ここはいまかなり寒くて、僕は上着を着て、帽子を被って、手袋をしている。もちろん日本のオーディエンスはとても洗練されているからそういった神話は信じないだろうけど、デトロイトにいる友人たちは僕が〈エデンの園〉に佇んでいるかのように思っているんだよ」。

 デビュー以来、テクノのフォーマットを大胆に再構築してきた彼ですが、今作ではスカ、ファンク、ジャズといった音楽との接点をかなり直接的に感じさせてくれます。もともとサックス奏者として8年間ジャズ・バンドで演奏していたという経験と、地元やデトロイトのミュージシャンのスキルが注入された結果なのでしょう。そういえば近年は、ジョン・アーノルド、ジェレミー・エリスといった周辺の仲間たちによる、ブラジリアンやファンクなどの要素が混成した快作が続いていますが。

「ある意味、彼らと僕は似たような音楽的方向を向いているのかもしれないね。僕らはデトロイトらしさということにあまりシリアスに取り組まず、より生楽器を採り入れている。でも僕の最大のインスピレーションは、ニュージーランドにいること。そしてここのミュージシャンの音楽を聴いたり、いっしょにプレイすること。ポリネシアン、ジャマイカン、ジャズ、ライヴ・バンド……これらの音楽はここではとても盛んで、それが今回のアルバムにも反映されている。ニュージーランドでは、シリアスでディープなヴァイブの作品はあまり意味をなさないんだ」。

 発言のとおり、ファット・フレディーズ・ドロップのジョー・デューキーほか、アルバムには地元ニュージーランドの音楽シーンからヴォーカリストやプレイヤーが多数参加。それにしても、ここまで音楽的に変化するのは冒険だったのでは?

「2003年に父親になって、僕は考えたんだ。このアルバムでは自分をあまり深刻に捉えないようにしてみようってね。自分をクールに考えたり、自負しすぎたりというのは僕のやり方じゃない。だから僕は孤立して、腰を振りたくなるようなファンクをベースにした曲を作ることに対して恐れがなかったんだよ」。

 デビュー作で見せたエクレクティックな片鱗は、見事に開花。真冬の南半球から届けられたメロウ・ヴァイブスは、ニュージーランドとリクルースの魅力を雄弁に物語っています。

▼リクルースの作品を紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年08月04日 10:00

更新: 2005年08月04日 19:18

ソース: 『bounce』 267号(2005/7/25)

文/リョウ 原田