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インタビュー

TREY SONGZ

エモーショナルでセンシティヴでソウルフル……このソングブックにはあらゆる情緒が美しく渦巻いている!!


 アトランティックの創設者で現在は会長職に就くアーメット・アーディガン(映画「レイ」でカーティス・アームストロングが好演していましたね)いわく「私たちはレイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、オーティス・レディングといったレジェンドを送り出してきたが、〈彼〉はその後継者となり得る逸材だ。声、曲、知性、ソウル、そして真のスターだけが持つカリスマ性を〈彼〉は兼ね備えている」。しかも、ファースト・アルバム『I Gotta Make It』のイントロではアレサ・フランクリンが紹介役を務め……と書けば、すわクラシカルなフレイヴァーを濃厚に含有した新たなソウル・スタイリストが登場か、と思われるかもしれません。が、その〈彼〉ことトレイ・ソングズは決してソウル・ルネッサンス的な持ち味のアーティストではなく、むしろTQやクレイグ・デヴィッドを思わせるソフトで甘口なヴォーカルが印象に残るタイプのシンガーでした。

 そんなトレイはヴァージニア州ピーターズバーグの出身。聖歌隊で活動する信心深い祖母にムリヤリ教会に連れて行かれつつ、バスケットボールやパーティーを楽しむ普通の高校生だったそうで歌に興味はなかった模様。「当時はR&Bすら聴いちゃいなかった。ビギーにジェイ・Z、ナズといったストレートなラップばかり聴いてたのさ」とまで明かす彼が、なぜか母親や友人の推薦で地元のタレントショウに出場し、最終的には20ものコンテストで優勝を果たしたというから凄い。やがて高校を卒業した彼は、音楽の道へ進むよう彼を熱心に説得したというトロイ・テイラーを頼ってニュージャージーに移り住みます。90年代初頭からキャラクターズとして活動してきた大物のテイラーは、そんなトレイにR&Bのイロハやレコーディング技術を叩き込んだのだとか。

「毎日いっしょにNYのスタジオに通ってたよ。行き帰りの車中で彼はいろんな音楽を聴かせてくれたんだ。スティーリー・ダンとかね。ファルセットについて学ぶ時はプリンス、ソウルについて学んだ時はモータウンをかけてくれたよ」。

 トレイはプロダクション・アシスタントとして多くのテイラー仕事に関わっていきます。ケヴィン・リトルの『Kevin Lyttle』では6曲のソングライトやアレンジを手掛け、トリック・ダディの“Ain't A Thug”では甘く青臭い最高のノドを披露。そうやってクラシック・ソウルとストリート・スタイルを融合したユニークなスタイルを確立したトレイがこのたびリリースしたのが、ソウルフルで美しい情緒を滲ませた『I Gotta Make It』です。トロイ・テイラーを中心にオーガナイズド・ノイズらも制作陣に名を連ねる同作のリード・シングルは、R・ケリー“Ignition(Remix)”をネタの速回しでリメイクしたような耳触りとインスピレーショナルな歌唱が素晴らしい“Gotta Make It”。同曲に限らずトレイのメロディーやフロウがあきらかにR・ケリーの影響下にあるのは間違いないところで、実際に本人も「R&BならR・ケリーが最高。ギャングスタからジェントルマンまで、彼は考えられる限りの、あらゆる種類のソウルをぶつけてくるからね」とコメント。憧れを隠そうとしないのもどこか初々しいですが……この後にはジュヴィナイルやトリーナ、スヌープ・ドッグら各々の次回作への参加も予定されていて、早くもその前途には明るい光が射しているようです。

「俺はソウル・ミュージックとして評価されると同時に、ストリートの支持も得られるような音楽を作っているんだ」。

 そう意気込む彼はまだ20歳。現代のストリート・ソウルを体現する彼の未来は、すでに祝福されているのかもしれません。恐るべき才能の登場です。
▼トレイ・ソングズの参加作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年08月04日 11:00

更新: 2005年08月04日 17:51

ソース: 『bounce』 267号(2005/7/25)

文/轟 ひろみ