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インタビュー

I WAYNE

キャッチーな楽曲に、直球のメッセージ、そして優しい歌声を武器にした新世代ラスタがヴェールを脱ぐ!!


〈日本の雑誌のために、写真を撮らせてください〉とアイ・ウェインにカメラを向けると、ゆっくり頷き、視線を斜め前方の彼方にずらして止まる。最初はびっくりしたけど、それが、彼流のポーズだと合点してからは、なんとなくコミュニケーションのテンポが掴めた。メジャー・コードで聴きやすい“Can't Satisfy Her”がまずジャマイカ国内で昨年ヒットし、今年に入ってヨーロッパとアメリカでも火が着いている注目のラスタ・シンガーは、正真正銘、ホンモノの〈天然不思議君〉だ。口調もはじめのうちは囁くよう。変なところで引っ張り出すようだが、話し方に限ってはマイケル・ジャクソンがジャマイカの方言=パトワでさらに抽象的な内容を喋っている感じ。なにしろ口癖が〈Natural〉、〈Simple〉、〈Easy〉。

 アイ・ウェインは生まれてからずっとキングストン市外の港町、ポートモアに住んでいる。その地元に赴き、案内された建築中の家のバルコニーで、取り巻きのラスタたちと降るような星とやたら攻撃的な蚊に囲まれながら、〈海が見えてきれいな場所ですね〉と切り出したら、「その昔、海賊たちが闘った血塗られた場所だよ」とボソッと言う。もー、あなたに言われると余計にコワイんですけど。気を取り直して、売春をテーマにした“Can't Satisfy Her”に対する世間の反応を確認する。

「〈よく曲にしてくれた〉と喜んでくれた人もいれば、偽善者ぶって聴かなかったフリをした人もいたよ。でも、真実はどうやっても出てくるものだからね。俺は目の前で起こっていることを曲にする。だから限界がないんだ。インスピレーションをくれたシスターたちにも感謝したい気持ちだね」と返ってきた。

 ストレートなダンスホール・レゲエはジャマイカの生活に密着した壁新聞的な側面があるものだが、同時代に並行して存在するラスタファリアンのアーティストたちによるレゲエは、一般にメッセージ性が高いものの、曲の素材は曖昧で教条的なことが多い。しかし、アイ・ウェインから半歩進んで一昨年から人気が爆発しているリッチー・スパイスが出てきたあたりから、状況を鮮明にした身近な曲が主流になっており、昨今の〈ニュー・ラスタ・ブーム〉を解読すると〈親しみやすいラスタ〉がキーワードになるだろう。アイ・ウェインのアプローチはさらにテーマを限定して、自分の見方を示す。話し方こそ囁き声だけれど、「ソカは嫌い」とはっきり言ってしまって、隣人トリニダード・トバゴのアーティストを怒らせたりもする。

 VPからリリースされたデビュー・アルバム『Lava Ground』(=Love Ground。愛の場所とでも訳せばいいのか……)には、社会ネタと〈愛のもとに、自然と生きよう〉というメッセージ・ネタが入っていて多彩だ。すでに本国でヒットしたタイトル曲と“Living In Love”も収録されている。

「第一に人生にはいろいろな面があるから、ひとつの話や見方にこだわってはいけない。俺の場合は風の間から物事を見ていて、風がフレッシュな考えやインスピレーションを運んできてくれるから簡単なんだ。ある種の曲が3曲あるから次は違うタイプを作ろうとか、音楽をそういうふうに考えるのは間違えている。真実をシンプルに描くこと、それだけだ」。

 タイトルの由来については、「俺は、愛の中で生きていて、それによって物事を進め、愛に満ちた場所に住み、人生を謳歌しているからだよ」と答えた。うーむ、わかるようなわからないような。発言こそ抽象的だが、彼が作る音楽は耳馴染みがいいし、言葉もストレートに伝わってくる。次のシングル“Life Seeds”はギターをバックにしたアコースティック調の曲だ。耳を傾けているうちに、ポートモアの水際にさらわれ、風が吹いてくるのを感じられるような清涼感を湛えている。25歳でこの表現力。ジャマイカからまたオール・ナチュラルな才能が出てきた。アイ・ウェイン。覚えておいてほしい。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年09月01日 16:00

更新: 2005年09月01日 18:42

ソース: 『bounce』 268号(2005/8/25)

文/池城 美菜子