インタビュー

The Strokes

新たな試みに挑戦し、その結果、過去最高に彼ららしいサウンドが完成した。ストロークスをストロークスたらしめるものとは──答えはここにある!


「何か新しいことをやろうって最初から決めていたんだ。〈アイツらまた同じようなことやってる〉と言われたくなかったしね。かといって僕たち自身、どんなふうに、どれくらい音が変わるのかわかってたわけじゃないんだけど」。

 ニコライ・フレイチュア(ベース)はこのようにニュー・アルバム『First Impressions Of Earth』に着手した時の心境を振り返るが、だとしたら彼らは間違いなく目標をクリアしている。ご承知のとおり、ストロークスはプロデューサーのゴードン・ラファエルとのコンビで作り上げた過去2作品において独自の音色を確立。それが一種のアイデンティティーにもなっていた。けれど、本作から聴こえる音はズバリ、クリア&シャープで奥行きもたっぷり。5人独特のアンサンブルの妙は維持しつつ、ライヴ感が俄然強まり、いつもノイズに埋もれていたジュリアン・カサブランカス(ヴォーカル)の声も前面に強調されている。この大胆な変身、実は2度目の挑戦で成功を見たのだという。彼らはセカンド・アルバム『Room On Fire』でも方向転換を志し、ナイジェル・ゴッドリッチにプロデュースを依頼。しかしセッションに行き詰まり、ゴードンとふたたび組むに至った経緯は有名だ。そのセカンド・アルバムの出来に不満はないものの、制作当時の状況は決して絶好ではなかったらしい。

「誰も口には出さなかったけど、急かされていることをヒシヒシと感じながら作ったんだ」(アルバート・ハモンドJr、ギター)。

「〈デビュー作の記憶が新鮮なうちに次を出さないと忘れられる〉ってレーベルに脅されて、マジに寝る間も惜しんで完成させたのさ。今のオレたちなら〈そんなことクソ食らえ〉って言えるんだろうけど、当時はまだ余裕がなかったんだよね」(ジュリアン)。

 だから今回は通常のスタジオを使わずに、まずはレコーディング機材を買い揃えて、「作業ができる部屋だけ借りて、好きな時に好きなだけ音楽が作れる環境を整えた」(アルバート)のだそう。そして1年を費やした成果が本作なのである。もっともアプローチは変えておらず、基本的に曲作りはジュリアンが担当。5人で共作する機会も増えたそうだが、凝り性の彼が負うプレッシャーが軽減されたわけではないようだ。

「オレが思うに、曲作りに関しては、経験を重ねると楽になる、という考え方自体が危険なんじゃないかな。常に上をめざし、新しいアイデアを紡ぎ出さなくちゃならない。自分が書いた曲に全部満足しちゃうのも不思議じゃないけど、残酷なくらい正直にならないと。自分を甘やかそうとする力に対抗するためにね(笑)。前より時間があるなら、もっといい曲を作るのさ。『Room On Fire』の時は、どんどん書いて録るしかなかったからね」(ジュリアン)。

 その曲作りの段階から深く関与し、本作の仕上がりに大きく貢献したのがプロデューサーのデヴィッド・カーン。

「ジュリアンが書いた曲がイマイチだと、デヴィッドは〈やり直して来い〉とはっきり言うんだよ(笑)。ゴードンの場合、〈キミたちがやることはなんでもカッコいいよ!〉ってノリだったから、これは大きな差だったね」(ニコライ)。

 こうして完成されたのは、構成が複雑で振り幅も激しく、これまでのように3分には収まらない14の曲。なにしろ計52分というヴォリュームは、従来の20分増しだ。そんなダイナミックな曲群を、最高の状態で聴かせるべく、名ミキサーのアンディ・ウォレスの力も借りて前述の音質を実現したのである。

「そもそも従来のローファイな質感に抵抗を覚えるという人が意外に多くて、曲そのものの良さが伝わっていないように感じたんだ。で、結構フラストレーションが溜まってたから、その障壁を取り除いたのさ。このアルバムから聴こえるサウンドのすべてがビッグで、遮るものがないんだよ」(ジュリアン)。

 つまり、安易な表現かもしれないが、彼らにとって本作は〈第2章の始まり〉なのでは?――そう問うと、ジュリアンは「これまでの活動にも愛着があるし、その時々にベストだと思えることをやってきて、今回も現時点でベストな作品を作ったまでさ」と、慎重に言葉を選びながら答える。

「でも確かに以前とは違う段階に突入したという手応えはあるよ。だからきっと、〈新しい始まり〉と言えるんだろうね」。
▼ストロークスの作品を紹介。

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掲載: 2006年01月12日 18:00

更新: 2006年01月19日 18:29

ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)

文/新谷 洋子