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インタビュー

Richie Hawtin

身体を、感覚を、フロアを、そして世界を取り囲む先鋭的なサウンド……四方八方の景色が移り変わる不思議な旅の案内人は、またしてもリッチー・ホウティンだ!


 ミニマム・ハウス道を突き進むマイナスの運営と並行し、DJミックスの新しい表現方法を模索してきたテクノ界最大の実験博士=リッチー・ホウティン。リズムマシーンとターンテーブルを使ってライヴDJとしての沸点を記録した『Decks, EFX & 909』、楽曲をループ単位で切り出して再構築した『DE9: Closer To The Edit』に続いて、彼がついにサラウンド仕様の大作『DE9 : Transitions』をリリースした。それは〈聴く〉というより、〈体験する〉という言葉がしっくりくる作品かもしれない。

「サラウンド・サウンドの導入以来、映画の世界はそれまでに比べて断然没入性の高いものになってきていて、実際に自分がそこにいるような錯覚に陥るほどだ。僕がこのアルバムに持ち込みたかったのはまさにそれなんだ。音、ループ、サンプル音、エフェクトがあらゆる方向から聴こえてくる音楽に、完全に浸ってほしい」。

 今作はCDとDVDで楽しむことができるが、上述のとおりメイン作品となるのはDVDに収録された90分強の5.1chミックスだ。映像面の演出は抑制され、トラック・リストがディスプレイされては消えていくのだが、そこでは同時に5~6曲のトラックが四方に配置されていることがわかる。そして5本のスピーカーに囲まれてステップを踏めば、そこでは万華鏡が模様を変えるようにグルーヴが表情を変えている……こりゃ凄い!!

「『DE9: Closer To The Edit』は他のトラックのループやサンプル音から楽曲を生み出すということだったのに対し、今回は数百もの楽曲から新しい楽曲を生み出すということをやった。同じようなことを言ってるように聞こえるかもしれないけれど実はそうではなくて、今作は前作よりもっとスムーズにミックスされていて、曲の展開にも時間がかかったりするんだ。つまり今作で試みたのは、それぞれのトラックをまったくのゼロから再構成するというよりむしろ、ある音や楽曲を融合させて何か新しいものを生み出すベストの方法を見つけようとしたことだね。その意味では従来のDJミックスに近いとも言えるよ」。

 結果として今作には150曲余りの減算ハウスが使用されているのだが、こうした流れの終局を飾るのは、本作のタイトルにもなっているアンダーグラウンド・レジスタンス“Transition”の煽動的なアカペラ。〈Make You Transition!〉と呼びかけるそれは博士のステイトメントでもある?

「過去2~3年間、NYやウィンザー、ベルリン……と引越しやDJツアーで移動を続けている時にこの曲を聴いたり、プレイしたりして、とても個人的な作品だと感じていた。でもそれだけではなくて、フロアのクラウドにもそれが伝わっていて、〈Transition(移行)〉という単語の持つ純粋さを確信したんだ。人生の過渡期/移行はすべての人が体験するもので、自分にとってテクノ・ミュージックとは常に新しい〈Transition〉を重ねること。どこから来たのかを忘れずに、限界がどこなのかを探る作業だ。それらすべてを含めてこの曲名が今回のアルバム・タイトルにも相応しいと思ったんだ」。

〈常に変化していく〉という志を持ったクリエイターは多いが、その成果をダンスフロアにもたらし続けている彼のような存在は意外に少ない。そのようにリッチーが絶大な支持を得続けられる理由は、以下のような発言が物語ってもいる。

「僕はサイエンティストでもあり、エンターテイナーでもある。どっちかだけじゃ駄目なんだ。踊る楽しみとか音に対する喜びを忘れたら、4か月もオタクみたいに部屋に籠もってずっとコンピュータの画面を見てるなんて、やってられないよ!」。
▼リッチー・ホウティンのミックスCDを紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年02月09日 21:00

更新: 2006年03月02日 19:43

ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)

文/リョウ 原田