古今東西のクリック・ハウスを往来する〈Transition〉の選曲
2001年の『DE9: Closer To The Edit』に続き、『DE9: Transitions』において、またしてもテクノ史上/DJミックス史上のK点越えを成し遂げた天才、リッチー・ホウティン。DJミックスという点では、最新ソフトを有効に活用したその斬新な手法(今作はDVDフォーマット使用のサラウンド仕様、そしてトラックを表示する発想など)が今作を傑作たらしめる要因のひとつであるわけだが、トラックを解体/再構成する手法~DJプレイにおけるネックのひとつである音質/サウンド・プロダクションのバラつきの解消、これによって成し得たのであろう選曲の妙味もまた今作のハイライトのひとつだと言えよう。
基本的には最前線のクリック・チューンを中心としたチョイスであって、盟友ヒカルド・ヴィラロボスをはじめ、オーディオン名義での近作も素晴らしかったマシュー・ディア(ファルス)、ジェイ・ヘイズ、ロバグ・ヴルン、さらにはステュワート・ウォーカーやロマン・フリューゲル(オルター・イーゴ)、ルチアーノ……といったいつもの面々だったりする。しかし、元祖音響ミニマルであろうパンソニックとその片割れであるミカ・ヴァイニオ(φ名義)のトラックがやたら使用されていたり、スカスカ・ミニマルの巨匠DBX(ダン・ベル)やロバート・フッドという選曲は〈クリック紀元前〉の歴史を俯瞰しているようで流石。そして何といっても、リッチー自身による過去のトラック――プラスティックマンやF.U.S.E.名義も含む――の答え合わせのようなチョイスが圧巻だろう。出た当初は難解すぎて支持されなかった〈Concept〉シリーズの楽曲もここでは異様に説得力があり、リッチーの天才ぶりを改めて痛感させられる。
個人的には、プラスティックマン異端の名曲“Spastik”の原型とも言えるドワーフの隠れた大傑作“Percussion Electrique”や、ダブ・ミニマルの隠れ名レーベル=ダムのモノ・ジャンク、トランスマットからもリリースしていたシカゴ・ハウスの雄=K・アレキシといったドマイナーな選曲に軽い興奮を覚えたのだが……。とにかく、今作のセット・リストに載っているトラックを追いかけて聴いていけば〈クリック・ハウス〉なるものの全貌が露わになるような選曲だと言えるだろう。ゆえに今後、気の利いたレコ屋の壁に〈『DE9: Transitions』に収録!〉という売り文句が並ぶであろうことも想定内なのである。
▼文中に登場したアーティストの作品を紹介
ヒカルド・ヴィラロボスの2004年作『The Au Harem D'Archimede』(Perlon)
F.U.S.E.の93年作『Dimension Intrusion』(Plus 8)
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掲載: 2006年02月09日 21:00
更新: 2006年03月02日 19:43
ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)
文/石田 靖博