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インタビュー

Ernesto

凛と冷えた夜の向こうから、美しい歌声が聴こえる。極上の肌触りで紡ぎ上げられた『Find The Form』のソウルフルな温もりに包まれてみよう


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 どことなく理知的で紳士的、しかしながら確実にソウルフルな温かみを宿したヴォーカル。アンセム化したステイトレスの“Fallin' Into”、あるいはシーズン“Juice”で聴けた魔法のような歌声の主こそ、アーネストことジョナサン・ベッケレである。スウェーデンはヨーテボリの出身で、父親が聖職者だったこともあって、子供の頃から教会で歌っていたという彼。ヨーテボリといえば、先述のステイトレスやスウェル・セッション名義で活躍するアンドレアス・サーグ、ヒルドとして知られるクリストファー・ベルグを続けざまに輩出した場所として記憶される土地だが、アーネストと彼らは高校時代からの親友でもある。

「学校が始まってすぐに仲良くなって、それからだね。音楽的にも凄く影響を受けている。彼らとは9年ほど前からずっといっしょに音楽をやってるんだ。だから僕らがスタジオに入るとなると、よく知り合ってるからお互いの意見を尊重できて、自分ひとりでは知ることのできなかった音の側面が引き出せるんだと思うよ」。

 ただ、ミュージシャンシップの高さで知られる友人たちとは音楽的なバックグラウンドが違うとも話す。

「クロスオーヴァー・シーンで活躍するアーティストの多くは、初めにジャズやソウルを聴いていて、一定のところでエレクトロニック・ミュージックに出会い、それらの音を融合していくものだと思う。でも僕は反対なんだ。最初はレイヴ系の音楽を聴いていて、16歳の時に先生に教えてもらってからジャズを聴くようになった。つまり、プロディジーからチェット・ベイカーへと移行していったという感じだね」。

 そんな感性をベースに、クロスオーヴァー界隈で膨大な客演をこなしてきたアーネストは、その一方で自身のアルバムもコンスタントにリリースしてきている。今回登場する3枚目のオリジナル・アルバム『Find The Form』も、スウェル・セッションやヒルドを筆頭に、交流の深い沖野修也をはじめ、セイジ(バグズ・イン・ジ・アティック)、マーク・ド・クライヴローなど、世界のトップ・クリエイターをプロデューサーに招きつつ、いままで以上に歌を主軸に据えた仕上がりが素晴らしい。しかも制作にあたって意識したのは、マイケル・ジャクソンの『Off The Wall』だったという。

「今回はハウスだけのアルバムにはしたくなかった。メインストリーム系の音楽を聴く人たちを仲間外れにしたくなかったのさ。そういう意味で『Off The Wall』はいい例だと思うよ。あの作品はメインストリームでも通用するけど、同時にダンス・ミュージック・リスナーにも人気があるよね。いまクラブでプレイしても、十分にフロアを盛り上げられると思う」。

 そう聞いたうえで、アットジャズ製の冒頭曲“Held”を聴けばイントロ数秒でピンとくる人もいるだろう。そういったわかりやすいオマージュ以外でも、ヨーテボリの後輩にあたるニルス(覚えておくべき名前だ)が手掛けたAORタッチの“Earn My Faith Back”や、福富幸宏によるキャッチーなエレポップ風ビートも印象的な“Eyes For Crying”なども違和感なく並べてみせるバランスの良さは、ひとりのブルーアイド・ソウル・シンガーとして自身の可能性を試さんとする、アーネストの志向を表明するかのようだ。

 すでに4度も来日し、「日本に来るたびにまた戻ってくるための口実を作ってしまうんだよね」と語るほどの親日家でもある彼。その歌声は、いわゆる〈クロスオーヴァー〉とはまた違う意味でさまざまな境界を飛び越えている。あとは聴き手の側が本当の意味でクロスオーヴァーするだけだ。

▼アーネストのアルバム。

▼参加プロデューサーの作品。


アットジャズの2001年作『Labfunk』(Mantis)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年03月30日 00:00

更新: 2006年03月30日 23:09

ソース: 『bounce』 274号(2006/3/25)

文/轟 ひろみ