インタビュー

YOYO-C

一本のマイクを武器に、〈生〉の音楽を伝え続ける男がいる。彼の言葉は愛を導き、平和を導き、そしてファッション化されつつあるレゲエ・シーンに一筋の光を導く!


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「ジャマイカの音楽は、ジャマイカンにはかなわない。でも、俺が生まれた国(日本)にはジャズもテクノもパンクも……なんでもある。そこのおいしい部分をプラスしない手はないし、そうすることによってジャマイカのレゲエに引けを取るはずがないと思うんですよ」。

 日本人としてできる、日本人だからこそできるレゲエ。2003年にリリースされたファースト・アルバム『THE SPECIALIST』でそれを雄々しく表現して見せたYOYO-Cが、セカンド・アルバム『LOVE, PEACE & LIGHT』を完成させた。前作ではVANGEEが共に担った音作りを、みずからの手の中にすべて収めて制作された今回のアルバムは、サンプリングを軸とする前作のフォーマットを踏襲しながら、レゲエDJという彼の立ち位置を改めて確認するような〈ストレートなレゲエ〉へとその音楽性を向かわせた。

「レゲエから少し離れた場所でやったファーストのスタイルが、レゲエから一歩先に行ったスタイルじゃないかなと俺は思ってるんですけど」と前置きして彼は言う。

「ジャンル分けする人たちって世の中に多くて、ファーストの時に〈これってレゲエなんですか?〉っていうことを言われたんで、そういう人たちにも〈これで文句ねえだろ?〉っていう」。

 そして、レゲエとしてデカいサウンドシステム、デカい音でブットく鳴らすことに前作以上にこだわったYOYO-Cの視線はふたたびジャマイカへ。ミックスダウンは彼自身「数あるレゲエのレーベルの中でいちばんバッドな音を出している」と評価するジャマイカの名門=ジャミーズの御大キング・ジャミーと息子のジャム2が手掛けている。

「ダンスホールが始まって以来、やっぱりいちばん喜んでいるのはジャミーズのサウンドかなって。音の太さが全然違いますよね。そこんとこは日本のエンジニアの人とやってもなかなかわかってもらえない。ジャマイカに行くと〈そりゃ、わかるわけないな〉ってことばっかりなわけですよ。メーター振り切っちゃってんのにOKとか、ディレイのかけ方ひとつにしても大胆だったり。日本のエンジニアはしないじゃないですか、やっぱり。向こうは常識の中でやらないからこそあの音が出てる」。

 その音をバックに、アルバム・タイトルにも謳われた〈LOVE〉が本作に大きく根を張っている。それは彼が今の世界へと向けた思いであり危機感だ。

「このアルバムの制作に入ったのがイラクで戦争の始まった時期でもあったから、愛を中心に歌いたかった。はっきり言っちゃうと、今の世の中一般はクソですよね(笑)。アメリカにしろ日本にしろ世界がゴチャゴチャになってる。TVをつけたらみんなが笑えるようなお笑い番組が一日中やってて、エデュケイトするような番組が少ない。もちろん俺もTVは観るし、そういうのも好きだけど、それだけじゃ自分も含めてマズいんじゃないかなって危機感がある」。

 そうした危機感は、日々その形を変えていく音楽そのものへも向かっている。PCの導入によってもはや誰にでもできるものとなった音楽を、パフォーマーという〈スペシャリスト〉たる自身の手で蘇らせる――持って回った言い方をすれば、それこそが彼がマイクを握る大きな理由のひとつかもしれない。彼がライヴと地続きのレコーディングにこだわる理由はそこにある。

「歌っていくうちに息遣いが荒くなってきたり、ちょっとズレたりするなかで急にヴァイブスが高くなるとか、そういうのが音楽を聴いていてやっぱりおもしろいなと思うところだし、それがあるから3分半の曲も聴ける。今の音楽は1分聴いたらわかっちゃう音楽ばっかりなんですよ。昔の音楽はライヴじゃないですか。生き様が3分間に入ってたんですよ、どんな音楽にも。だから僕もそこにすごくこだわってるし、声をかぶせたり、テイクを重ねたりしないんです」。

 YOYO-Cが愛着を寄せる音楽同様、『LOVE, PEACE & LIGHT』は「土臭くて、人間の匂いが感じられる」ものになった。

「エデュケイトするメッセージの込められた、良いものが伝わる音楽が(チャートの)上位にきていいと思うし、そういうものを〈音楽〉と呼んでほしい」。

 つまり、このアルバムがそれだってこと。
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カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年04月13日 01:00

更新: 2006年04月13日 19:22

ソース: 『bounce』 274号(2006/3/25)

文/一ノ木 裕之