Mobb Deep
クイーンズの悪党たちが、Gユニットと盃を交わした! 血で血を洗うゲームの勝者はやはりモブ・ディープだ!!
その確固たる評価に反して、表舞台での華々しいトップクラスの成功の印象が希薄なモブ・ディープ。その要因を、殺伐としたストリートの空気感そのままのロウな音楽性ゆえ、と済ませるのは簡単だ。だが、エミネム主演映画「8マイル」のオープニングで“Shook Ones Pt. 2”が起用された際に、その時代に感じたスリリングな昂揚感が甦り、彼らが同時代のみならずその後に登場したアーティストたちにも多大な影響力を与えてきたデュオであることを再認識した方も多いだろう。モブ・ディープに衝撃を受けたアーティストは多数いる。50セントもそのうちのひとりだった。
「50はモブ・ディープの音楽性を一切変えようとしなかった。だから俺たちはスタジオに入っていちばん得意なことをやっただけだよ」(プロディジー)。
前作『Amerikaz Nightmare』のリリース後、モブ・ディープの元へ50セントからGユニットとの契約を打診する電話が入り、電撃的な移籍が決まった。ストリート・マナーそのままのスタイルでメインストリームを席巻し続ける50セントのGユニットからのリリースということは、いままで以上にモブ・ディープの露出が期待できることを意味する。メアリーJ・ブライジが歌う“It's Alright”、映画「ワイルド・スタイル」の曲をサンプリングしたアルケミストの手による“The Infamous”、フレッドレックのプロデュースでネイト・ドッグも参加した“Have A Party”、ドクター・ドレーとの“Outta Control(Remix)”など、強力な曲が次々と登場するニュー・アルバム『Blood Money』は、新しいコラボレートによる可能性とスケールの拡がりを感じさせる作品になった。が、そんななかでも独自のスタイルは維持されたままであり、ハヴォックが多くの曲を手掛けている点も変わらない。規制のない新たな環境下で改めてモブ・ディープの持ち味を発揮し、進化していることを証明したといえるだろう。
「“Creep”はイルなビートでハヴォックがプロデュースした。ニュー・スタイルのサウンドで、みんな聴いたら驚くと思うよ。真夜中にストリートの連中が何をやっているかラップした曲なんだ。ストリートの連中が真夜中に〈忍び寄る〉っていう意味さ。ブロックのテーマ・ソングだな」(プロディジー)。
「アルバムのコンセプトは俺たちがモブ・ディープであり続けることさ。俺たちが作ってきた最高のストリート・ミュージックを守り続けたいだけだよ」(ハヴォック)。
「俺がいままでやってきたことと一貫しているサウンドを作りたかった。別にラジオ向けの曲は作ろうとしなかったし、あえてギャングスタっぽい曲を作ろうともしなかった。すべて俺の心、俺の暮らす環境、
そして俺の体験から生まれてきた音楽なんだ。『Blood Money』というアルバム・タイトルは、カネに対する俺たちの考え方を反映させたものだ。アメリカと地球の金融システムは邪悪なんだよ。どうやってカネを手に入れたとしても、それはどこかで誰かが血を流して作り出したカネなのさ。それは否定できない事実なんだぜ」(プロディジー)。
クイーンズの裏路地から世界に向けて、危険な音楽がジリジリとすぐ側まで忍び寄ってきている。
▼『Blood Money』に参加したアーティストの作品を紹介。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2006年06月15日 17:00
更新: 2006年06月15日 19:03
ソース: 『bounce』 276号(2006/5/25)
文/高橋 荒太郎