インタビュー

Mystery Jets


〈フジロック〉への出演も決定している話題の超個性派5人組、ミステリー・ジェッツがファースト・アルバム『Making Dens』の日本盤をリリースした。テムズ川中流域に浮かぶ小さな島の出身で、メンバーになぜかひとりだけおじさんが混ざっている(!)という突っ込みどころ満載の彼らだが、あのアークテイック・モンキースをも虜にしたサイケデリックでポップなサウンドは、ここ日本でもブレイク必至! ベースのカイ・フィッシュ(以下同)が生まれ故郷のイール・パイ・アイランドについて、まずはこう語ってくれた。

「ほとんどの人が知らない場所(笑)。ロンドンの人間にもこの島の存在はあまり知られていないからね。魔法的な場所なんだ。400年前にヘンリー8世がよく立ち寄ったらしいよ。小さな小さな島で、人口は100人~120人程度。大きな道は1本しかないから、ロンドンに比べれば凄く平穏で、まるでオアシスみたい。音楽シーンから切り離されているような気がするから、とても自由になれるんだ。ここの平穏さは僕たちの音楽のなかにも生きていると思うよ」。

 そんな彼らにまつわるミステリーのひとつが、メンバー内に実の親子がいるということ! 人口100人の島で他に楽器を弾ける人がいなかったのかと思いきや、もともとバンドをスタートさせたのはそのヘンリー&ブレイン・ハリソン親子とウィル・リーズだったそう。つまり、ヘンリーおじさんはバンドにとって極めて重要な存在らしい。

「自然とそうなったんだ。ヘンリーは自分の息子やその友達といっしょに音楽をやれたら楽しいだろうなって考えていた。で、気付いたらバンドを組んでいたんだよ。別にそんなことは大した問題じゃない」。

 秘密基地作り(=Making Dens)をコンセプトに掲げた今作は、まさにジャケットのイメージそのまんま。アルバム全体を包み込むミステリアスな空気、それ自体がまるでひとつの物語であるかのようで、そこには暗い森を抜けて迷い込んでしまったような、ちょっぴりストレンジな世界が待っている。そこで偶然見つけた秘密基地(=Dens)には、とっても素敵な5人組が楽しそうに演奏をしているのだ。

「暗いなかにも木陰の合間から光が差す。何が出てくるかわからない……っていうイメージが、このアルバムにはピッタリだね。各楽曲がいろんな世界を生み出しているから、一曲一曲が秘密基地なんだ。これは僕たちにとっての記念すべきファースト・アルバムだから、小さな秘密基地を作っていくというのはおもしろいコンセプトだと思ったよ」。

 フランツ・フェルディナンド級のポップネスとシド・バレット直系のサイケデリア、そしてコーラルやズートンズが所属するデルタソニック周辺のバンドたちにも通じる一風変わったギター・サウンドは、ムーヴメントに左右されない絶対的なオリジナリティーに満ちている。

「僕たちはコーラルが出てくるずっと前からバンドをやっているんだけど、彼らのファースト・アルバムを聴いた時は興奮したね。おそらく凄く自由な環境であの作品を作ったんだろう。でも僕たちは彼らの音楽からは影響を受けていないよ。ズートンズも良いバンドだし、彼らの曲は実に多彩だけど、ミステリー・ジェッツの音楽にはそれらのバンドよりもダークな要素があると思うんだ。ポップな曲もあるけど、僕たちは曲作りをしている時、過去に書いた曲や他のバンドの曲に少しでも似ている要素があったらそこで作るのを止めてしまう。クリエイティヴな作業だから、本当にオリジナルなものじゃないと満足しないんだよ。同じことの繰り返しなんて興奮しないね。少なくとも僕はそう思っているし、他のメンバーもきっと同じ気持ちだと思うよ」。

 今年の夏、最大のミステリーは彼らのステージだった!――果たして苗場の森で、どれほど多くの人が目を輝かせながらそう叫ぶのだろう? 『Making Dens』を聴いて、間近に迫る来日公演にますます期待はつのるばかりだ。

PROFILE

ミステリー・ジェッツ
ブレイン・ハリソン(キーボード/ヴォーカル)、ヘンリー・ハリソン(ギター/ヴォーカル)、ウィル・リーズ(ギター/ヴォーカル)、カイ・フィッシュ(ベース/ヴォーカル)、カプリ・トリヴェディ(ドラムス/ヴォーカル)から成る5人組。イングランド南東部のテムズ川中流に浮かぶイール・パイ・アイランドを拠点に、幼馴染みのブレインとウィルを中心にバンドの母体となるユニットを結成。2002年にカプリが加入して、現在の編成となる。ヘンリーが所有するヒッピー・コミューンの跡地を改装した艇庫で練習を重ね、2005年にシングル“On My Feet”でデビュー。このたびファースト・アルバム『Making Dens』(679/Warner UK/ワーナー)の日本盤をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年06月29日 01:00

更新: 2006年07月06日 19:33

ソース: 『bounce』 277号(2006/6/25)

文/白神 篤史