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インタビュー

Johnny Boy (Rock)


 いやはや、待たされた。超限定のデビュー・シングル“Johnny Boy Theme”を経て、世界中から絶賛されたシングル“You Are The Generation That Bought More Shoes And Get What You Deserve”をリリースしたのが、いまから約2年も前のこと。今回取材に応えてくれたローリーことロレイン・ハワードによれば、当時契約していたレーベルと方向性の違いで一悶着あり、ゆえに再出発に時間が掛かったのだそう。が、音楽業界に失望してそのままフェイド・アウトすることがなくて本当に良かった。なにしろ、このファースト・アルバム『Johnny Boy』は、流行の移り変わりが早いUKシーンにおいてジョニー・ボーイのポジションがいまだに特異な場所にあることを証明しているだけでなく、ロック人気がポップス人気を凌駕したといわれるUKで、しかしロックンロールのアティテュードがいまだに先鋭かつ有効なものであることをつきつける一枚になったのだから。

「私たちの作品は長く愛されるべきなの。ファッションの要素だけが注目されるとか、一時のヒットで終わるバンドにはなりたくなかったのよ。私たちはいつもバンドを長い目で見ているし、制作にどれだけ掛かろうがいつか認められると信じていたから」(ローリー:以下同)。

〈認められる〉どころの話ではない。スピリットを持った一部のバンドを除けば、いまのUK産ロック・バンドの多くが向かう音楽への姿勢は、ロックが本潮流になったからこそ、どこかヌルさを纏っているように思えないだろうか? そこに大鉈を振り下ろすのが、ジョニー・ボーイだ。歌詞には大企業の実名群はもちろん、かつてパンクだったのにいまや〈大御所〉の立場に甘んじている現代美術作家たちの名前まで、ビシバシと切り刻んでいる。単にそれだけだとショック効果を狙ったものにしかすぎないだろうが、アルバム全体をとおして聴けば、「なあなあで大人の余裕」をブッこく社会に対して、時にシニカルに、時に挑発的に、問題提起を繰り返していることがわかる。ロックンロールはこのように挑戦し続ける音楽であるべきだ。

 かつて同じように音楽で挑発し挑戦したクラッシュの『Sandinista!』期の音やデビュー時のストーン・ローゼズの雰囲気もそこかしこに持ちつつ、エヴァーグリーンなメロディーラインをさまざまにアレンジするこの2人。ダヴォ(アンドリュー・ダヴィッド)とローリーは、曲作りから歌詞まですべてを共有しながら制作するという。「傍から見ると、古典的なソングライティングに思えるかもしれない」という方法で、彼らは地に足を着けながら楽曲を一つ一つ生み出していった。サイケデリックな色彩を繊細なアレンジで生み出す曲が多いなかで、〈ここまで直球パンクな曲も書くのか!〉と驚かされる“Formaldehyde”なんて曲も収録されているほどだ。

「ファースト・アルバムではできるだけいろんなことを試して、リスナーを驚かせたかったのよ。そもそも〈古いものから新しいものを作りたい!〉って思っているしね。いろんなジャンルの音が入るのは、私たちにとってとても自然なことなのよね」。

 90年代後半からロンドンで活動する彼ら。その音楽への姿勢は、結成時からいままで一切のブレがない。

「私たちが考える〈素晴らしい曲〉とは、リアルでオリジナリティーに溢れていて、それでいて曲に込めた感情でリスナーと繋がっていられるものでなきゃいけない。あと、ふだん感じていても、なかなか言い出せないことを思い出させるっていう要素も大切よね」。

『Johnny Boy』を聴いたら、考えずにはいられない。考えるトピックは人それぞれだろうが、少なくとも私はヌルい空気に慣れそうになった時には、繰り返しこのアルバムをCD棚から出してくるだろう。

PROFILE

ジョニー・ボーイ
ダヴォことアンドリュー・ダヴィッド(ギター/ヴォーカル/プログラミング)とローリーことロレイン・ハワード(ギター/ヴォーカル/プログラミング)による男女2人組ユニット。リヴァプールのガレージ・パンク・シーンで知り合った2人が、90年代後半にロンドンで再会したのをきっかけに結成。2004年8月に発表されたセカンド・シングル“You Are The Generation That Bought More Shoes And You Get What You Deserve”がヒットを記録。しかしポリティカルなメッセージが問題視されて、当時所属していたヴァーティゴから契約を解除される。その後、自主レーベルを設立。このたびファースト・アルバム『Johnny Boy』(Jonny Boy/FABTONE)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年07月20日 02:00

更新: 2006年07月20日 19:22

ソース: 『bounce』 277号(2006/6/25)

文/妹沢 奈美