インタビュー

ビューティフルハミングバード

マイペースでじっくり練り上げられた、緩やかで大らかな音世界……ポップスとしての普遍性に満ち溢れたサウンドと歌声に浸りましょう


 海、花、鳥、空といったモチーフを散りばめながら、ゆったりと美しく、ときに凄まじい強さを感じさせる〈歌〉を描き出すアコースティック・ユニット、ビューティフルハミングバードが、実に3年半ぶりとなるアルバム『空へ』を完成させた。鈴木惣一朗をプロデューサーに迎えた本作には、70年代のフォーク~ポップスをルーツに持つふたりの音楽が、オーガニックかつ立体的に表現されている。
「3年半の間に、いろいろと新しい音楽を聴いたんです。それまではあんまり洋楽に触れてなかったんですけど……。はっぴいえんどや金延幸子を聴いたのがきっかけで音楽をはじめたので。でも、ジョニ・ミッチェルなんかを聴くようになって、ますます(音楽が)楽しくなってきましたね」(小池光子、ヴォーカル)。

「バンド・サウンドを採り入れることによって、自分のギターの役割も変わってきたような気がしてて。さらにふたりが寄り添えるようになったというか、自分もギターで歌ってるような感じ。感情が出しやすくなったと思います」(田畑伸明、ギター)。

〈はなの つぼみ/しずかに ひらく/そのときを みつめよう〉(“そっとみていよう”より)というラインに象徴される、童謡的、神話的なセンスに支えられた歌詞も、さらに深みを増している。

「よくNHKとかで、〈動物の生態の不思議〉みたいな番組をやってますよね。ああいうものが大好きなんですよ、普段から。水族館のマグロを見て、〈かっこいい!〉と思って歌詞を書いたこともあるし(笑)。そういうものって〈自分が大きなものと繋がっている〉という実感の糸口になるんですよ。自然に対する憧れが大きくなると、逆に人間が愛おしく感じられるし。それは何も特別なことではなくて、誰でも普通に感じてることだと思います。森に行ったらリラックスできるとか、海を見てることで癒されるっていうのも、同じことですよね」(小池)。

 緩やかにして壮大なタイム感をしっかりキープすることで、聴く者を〈本来あるべき姿〉へと戻してくれる。そんな作用を感じさせてくれる『空へ』は、時代、流行、性別、年齢を超え、あらゆる人たちのなかにゆっくりと浸透していくはずだ。

「自分の母親とかおばあちゃんに喜んでもらえる曲だったらいいなっていうのはいつも考えてますね。あと、子供たちとか。小さい頃に音楽でしか感じられなかった気持ちって、いまも心のなかにハッキリ残ってるんです。そういうものが自分たちで作れたら、すごいと思いますね」(小池)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年08月03日 02:00

更新: 2006年08月04日 06:02

ソース: 『bounce』 278号(2006/7/25)

文/森 朋之