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インタビュー

DMX

2006年、戌年……猛々しさを取り戻した王者が堂々の大復活!!


 これまでに何度も引退宣言をしていたDMXが、レーベルを移籍して本格的に再始動! 長いブランクの末に引退を撤回した理由について、彼はこう説明する。

「俺自身のためでもなければ、ビジネスを動かしてる奴らのためでもない。ファンのためさ。ただそれだけだよ。世界のどこへ行っても〈新しいアルバムはいつ出るんだよ?〉って言われたんだ」。

 シングル1枚で契約を切られるという辛酸を嘗めた後、98年にデフ・ジャムから『It's Dark And Hell Is Hot』で華々しく蘇って以降、DMXは常にシーンの最前線で活躍してきた。その人気を証明するように俳優としてのオファーも多く、映画にも出演するなど名実ともにトップスターとなった彼だったが、ラッパーとして自身の制作環境に対するストレスは常にあったようだ。

「俺とジェイ・Zは仲間だから、アイツが上司になるのは良くないアイデアだって初めから思ってた。だって、同じような道を歩いてきたヤツが、突然ボスになるのなんて考えられないだろ?」。

 ジェイ・Zが社長に就任したデフ・ジャムを離れ、そのまま引退するのかと思われたが、結局は多くのファンの声に応える形で復帰を決意したDMX。今回コロムビアとのディールを決めたのは、ラップ・アーティストとしては異例の歓待と、惜しみないバックアップへの約束だったという。

「〈もう一度、ウチでやってみないか?〉って家族のように接してくれたんだよ。一時期はインディペンデントにでも行こうかと思ったこともあったけどね。ミーティングにも参加させてもらって、これはラップ・アーティストにとっては史上初らしいんだけど。レーベルの世界マーケットに向けて俺が最優先のアーティストになるっていうのが理由だったんだ。彼らにしてみれば〈DMXは伸びるアーティストだから、力を入れていこう〉ってなもんかな。彼らは俺のプロモ・クリップを流したり、曲をかけたりして、俺も少し喋って、総立ちの歓迎を受けたんだ。実際、彼らは俺を立ててくれてる気がした」。

 そうして届けられたニュー・アルバム『Year Of The Dog Again』を聴けば、現在のDMXを取り巻く環境の好転と本人の強い意志に納得できるだろう。エイメリーの官能的な歌声も効果的な“Dog Love”や、ラフ・ライダーズ全盛期の勢いを再現するかのような盟友スウィズ・ビーツ製の“We In Here”、ロッキンなトラックにスウィンギンなラップが冴え渡ってロック・リスナーも魅了しそうな“Wrong Or Right”、じんわり浸透するスコット・ストーチのトラックでエモーショナルなフロウを聴かせる“Lord Give Me A Sign”など、過去のアルバムにも勝るとも劣らない、新たなスタートに相応しい超強力な完成度を誇る仕上がりになっている。傑作『The Big Bang』を放ったばかりのバスタ・ライムズらの参加もあるが、何よりもブランクを感じさせないDMXのエネルギッシュでエモーショナルなラップには圧倒されるばかりだ。

 昨年は南部のアーティストがシーンを席巻したが、ここにきてNYのラッパーたちの巻き返しも目立っている。先述のバスタらヴェテランから有望な若手までが一丸となってNY復興の機運を高めるなかでの、DMXの本格復帰というのも象徴的だ。『Year Of The Dog Again』ではトレンドに迎合した音よりも、NYらしく、そしてDMXらしいビートが選ばれている。

「俺の音楽は単にクラブで腰を振るためだけのものじゃない。いま何かの苦難を耐え抜いている奴らに聴く必要があると思ってもらえるものだからな」。

 DMXの復帰がシーンに与える影響は、予想以上に大きいかもしれない。
▼『Year Of The Dog Again』に参加したゲストの作品を一部紹介

▼DMXのアルバムを紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年08月17日 01:00

更新: 2006年08月17日 21:58

ソース: 『bounce』 278号(2006/7/25)

文/高橋 荒太郎