インタビュー

YUKI

精力的なシングル・リリースを経て待望のニュー・アルバムを発表! よりパーソナルに、より緩やかに波打つ音世界を紐解いてみよう!!


 前作『joy』の発表から本作完成に至る1年半の間に5枚のシングルをリリースし、2本の全国ツアーを敢行(ソロ初の日本武道館公演も実現)と、これまでになく精力的な活動を見せたYUKI。『joy』制作中は「自分から出てくるものをとにかく止めたくなかった」というほど強い制作衝動に駆られていたそうで、いわば、その攻撃的なムードが昨年のアクティヴ・モードに繋がっていたという。しかし、本作『Wave』からは、それとは正反対のリラックスした空気も感じられる。前作が〈攻め〉なら、本作は〈守り〉と〈弛緩〉も少々、という感じ。『joy』からの流れと、この1年半の彼女の気持ちの変化や姿勢のありようが、ここには両方パックされている。

「素直に作ったものかな、と思います。朗らかな気持ちというか。穏やかに、イカダに乗って流れ着いたらそこでいいんじゃん、みたいな。無理をしてないアルバムになりました」。

 スキマスイッチやUKの新進シンガー・ソングライター、ケイティー・タンストールが作曲したナンバーが収録されたことも本作の話題。しかし、基本のサウンド・メイク陣は前作『joy』の流れにある。YUKIの歌詞の書き方も前作から引き継いだものだ。

「『joy』の制作後半から、自分が表に出ているものはあんまり歌いたくないなというのがあったんです。(歌詞の主人公が)〈僕〉でもいいし、〈アタシ〉でも、〈私〉でもいいし。(自分とは違う)誰かがいて、イメージがあって、そこから広げていくという。イタコ状態で書いていって、何かそこに自分の気持ちが出てきたら、それは止めない、というふうにしようと思っていたんです」。

 そこでふと浮かび上がってきた気持ちこそ、YUKIの潜在意識≒彼女のリアル。本作の中心曲になったという“歓びの種”には〈結びなおしてね〉という一節が出てくるが、これも「もう歌を歌えないかもな、という心と身体がすごくバラバラになってしまっていた時期に書いた曲だったので、本当は〈私を結びなおして〉ということを言いたくて作りました」という。そして、その〈結ぶ〉ということが本作のテーマにも繋がっていく。『Wave』は、空と地上を繋ぐ〈結び目〉が海や波であること。また、自身が新たな生命を授かったことで、バイオリズムというものが何かを生むということを実感し、その波に身を委ねることの大事さも感じるようになって名付けたのだという。

『joy』ではファンタスティックな世界観でエンターテインしてくれた彼女。けれど、今回の『Wave』は、ジャケットに本人の飾り気のないポートレートがあしらわれたことからも、ドキュメンタリーのような趣向を奥底で味わえる作品なのかもしれない。

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掲載: 2006年08月31日 23:00

ソース: 『bounce』 279号(2006/8/25)

文/猪又 孝

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