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インタビュー

Lyfe Jennings


「もともとウケる要素はあったと思うけど、前作があんなにヒットしたのは驚きだったね。そのおかげでいろいろな場所をツアーできたし、小さなハコからデカいアリーナまでを経験することができた。そういう経験をして、オーディエンスひとりひとりを大切にしなきゃ、って感じたんだ。だから歌や曲が人に訴えかける何かを持ってるということこそ、俺が他のシンガーと違う部分じゃないかな。タイトルを自分の服役時代のIDにしたのも、プリズンをウリにしたかったわけじゃない。ただ、パーソナルな体験を、同じような体験をした人にわかってもらいたいっていう気持ちでやっただけ。それが他にないユニークな味だったのかも知れないね」。

 みずからの経験から生まれた歌詞を渋味のある歌声で語った『Lyfe 268-192』にて、衝撃のデビューを果たしたライフ・ジェニングス。その独特の味わいがここ日本でも話題を呼んだ彼が、2年ぶりとなるセカンド・アルバム『The Phoenix』をリリースした。自身の息子の名をタイトルに冠したという今作でも、冒頭での発言のような〈基本姿勢〉は変わらない。

「前作ではライフという人間のライフを語っていて、その続きがこの『The Phoenix』なわけ。だから、基本的には今回もライフのパーソナル・ライフを物語る作品なんだ。これはファミリー・アルバムで、お父さん、お母さん、子供たち、誰が聴いてもいいアルバム。特定の人に聴かせちゃいけない曲はないし、俺が誠心誠意を込めて作ったアルバムなんだよ」。

 その一方で、サウンドやヴォーカルは格段の広がりを見せ、結果的に作品全体がスケール・アップしている。制作期間は2週間(!)だったというが(ちなみに前作は1週間!!)、よりソウルフルで成熟した歌唱力はさらに説得力を増しているし、哀愁系のスロウが目立った前作に比べると、優しさや穏やかな温かさを感じさせるトラックも増えている。彼の立ち上げたレーベルの第1弾シンガー、ララ・ブラウンとのデュエット“S.E.X.”などで表現されている彼なりのメッセージも聴きものだ。

「その曲はセックスそのものを歌ってるんじゃなくて、年頃の16、7歳の女の子がセックスに目覚める過程を取り上げてるんだよ。ずっと歳上の男たちが若い女の子を利用しているという現実に注意を促すっていうか、〈野郎どもがキミたちにちやほやする目的はひとつだぜ〉って警告してるのさ。ライヴでやるとけっこうウケるよ。みんなでコーラスしたりね」。

 さらに、ヤング・バックやスリー6マフィア、プロジェクト・パットといったゲスト陣とのコラボも披露。自身もところどころでラップしているが、子供たちにフックを歌わせた“Keep Ya Head Up”といった曲でのライフは、2パックやノトーリアスBIGらが自身の表現スタイルに多大な影響を与えてくれたことを感謝するかのようだ。

「俺はもともとラップが凄く好きだったんだ。彼らがパーソナルな事柄やストリートの現実を視覚的に語ってるところに惹かれた。ああいうスタイルに影響されて、俺も自分のストーリーを歌で表現したいと思うようになったんだよ」。

 だからなのか、「初めてアポロ・シアターに出た時は、ギターを持ってステージに上がったらいきなりブーイングさ(笑)。みんな俺を見てラッパーだと思ったみたいなんだ」というエピソードもあるそう。ただ、一度歌い出したら観客が歌をじっくり聴きはじめ、最初の晩に優勝できたのだという。その後も優勝を重ねて辿り着いたのが一昨年のデビューだったというわけだ。幼い頃は「片親で育った普通のガキ」だったとも話すライフだが、そんな人だからこそ伝えられるストーリーがある。その飾りのない言葉たちを染みる歌声に乗せて、彼はますます多くの人たちの心に届けてくれることだろう。

PROFILE

ライフ・ジェニングス
オハイオ出身のR&Bシンガー。幼い頃から教会で歌いはじめ、兄弟や従兄弟とのグループでも活動していた。放火の罪で懲役10年の刑に服すものの、刑務所内で聴いたエリカ・バドゥのCDをきっかけに、本格的に音楽を志すようになる。獄中で曲作りを進め、2002年末に出所。デモCD-Rを手売りしながら、クラブでのパフォーマンスを開始する。アポロ・シアターへの出演で脚光を浴び、2004年にコロムビアと契約。同年のデビュー・アルバム『Lyfe 268-192』は3年間に渡るロング・ヒットで100万枚のセールスに到達している。2パックのトリビュート盤参加や、リル・フリップ、LLクールJへの客演を経て、このたびセカンド・アルバム『The Phoenix』(Columbia/ソニー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年09月14日 14:00

更新: 2006年09月15日 00:03

ソース: 『bounce』 279号(2006/8/25)

文/佐藤 ともえ