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インタビュー

FERGIE


「“My Humps”は『Monkey Business』のなかで最後に録音した曲だったの。初めてビートを聴いたときからおもしろい曲になるって思ったわ。ロクサーヌ・シャンテやソルトン・ペパ、クイーン・ラティファみたいな昔の女性MCを彷彿させる曲だったからね」。

 ネリー・ファータドやジャスティン・ティンバーレイク、ケリスらの新作を聴いていると、セクシャル・ハラスメントのエレクトロ古典“I Need A Freak”をモチーフにしたブラック・アイド・ピーズ(以下BEP)“My Humps”の重要性を改めて思い知らされるけれど、そこでのコケティッシュなパフォーマンスによって人気を決定付けたグループの紅一点=ファーギーのソロ・デビュー・アルバム『The Duthcess』は、上に挙げた傑作群と同様に現行ポップ・ミュージックの最前線に蔓延する空気を胸いっぱいに吸い込んだような作品と言っていい。

「メンバーの反対もなかったし、ソロ・アルバムを出すならいまが最適だと思ったの。これは素晴らしいチャンスだと思ってるわ。いままでの人生におけるすべての出来事がこの基盤を築くためのブロックになっていると思う」。

 BEPの頭脳であるウィル・アイ・アムを核に据えた制作陣は、プッシーキャット・ドールズ“Buttons”もヒット中のポロウ・ダ・ドン、新作『Once Again』も楽しみなジョン・レジェンドなど。アルバムは冒頭からJJ・ファッド“Supersonic”とアフロ・リカン“Give It All You Got”を掛け合わせたエレクトロ/ベース・チューンの“Fergalicious”が飛び出してきて興奮させられるが、その多彩な全容は、ファーギー自身も答えに窮しているように、とてもじゃないが一口では言い表しがたい。

「どう呼んでいいかわからないけど、〈ゴチャ混ぜ〉がいちばんしっくりくるのかも。BEPの作品と同じようにジャンル分けもできないから、曲を聴いた瞬間に自分がどう感じるかよね。曲によってキャラを変えるのもすごくおもしろかった。アップダウンの激しい作品にしたかったし、その方が聴いてておもしろいと思うのよね」。

 早々と全米を制したゴージャスなクラブ・バンガー“London Bridge”、ノー・ダウト風のスカ・ポップ“Voo Doo Doll”、アイ・スリーズを従えたルーツ・ロック“Mary Jane Shoes”、官能的なスムース・ボッサ“Velvet”……そんな目まぐるしく展開していくアルバムにあってひときわ鮮烈なのが、リトル・リチャードの“The Girl Can't Help It”をループした“Clumsy”と実質はテンプテーションズ“Get Ready”のリメイクとなる“Here I Come”だ。

「私はオールディーズに大きな影響を受けてるの。あとはローライダーのカルチャーね。私が住んでいた地域はローライダー車でクルーズしてる人たちが多くて、彼らのほとんどがオールディーズを流してたの。幼い頃に行ったテンプテーションズのコンサートも刺激になったわ。だから“Here I Come”なんかは特別な作品よね」。

 もっとも、『The Duthcess』の焦点となるのはサウンド面に限ったことではない。みずからの実体験に基づく“All That I Got”や“Finally”で聴ける真摯な歌い口からは、BEP作品では窺い知れなかった〈ステイシー・アン・ファーガソン〉の素顔を垣間見ることができるはずだ。

「アルバムには私自身のライフ・ストーリーが詰まってる。ラヴソングも苦悩を歌った曲もすべて事実よ。多くの人が私のことを〈BEPのお転婆娘〉だと思っていて、本当の姿は知らないと思うの。確かにそれも自分の一部ではあるんだけど、それがすべてじゃないから。BEPはアルバムで社会問題に触れたり世界を見据えたアプローチをしてるでしょ? 私のアルバムはもっと自己中心的で、私の個人的な部分や内面が表れている。自分のあらゆる面を見てほしかったからこそ、そうしたのよ」。

PROFILE

ファーギー
75年生まれ。本名ステイシー・アン・ファーガソン。83年にTVアニメ〈スヌーピー〉の声優として芸能活動を始め、子供番組「Kids Incorporated」にレギュラー出演するなど、子役タレントとして人気を博す。モデル活動などと並行して90年にガールズ・トリオのワイルド・オーキッドを結成し、97年にメジャー・デビューを果たすものの、99年に解散。薬物中毒を克服して、2003年に加入したブラック・アイド・ピーズでブレイク。今年に入って映画「ポセイドン」への出演を経て、ソロ・デビュー・シングル“London Bridge”をリリース。全米チャート1位に輝いた同曲のヒットを受けて、このたびファースト・アルバム『The Dutchess』(Will.I.Am/A&M/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年09月28日 20:00

更新: 2006年10月13日 00:08

ソース: 『bounce』 280号(2006/9/25)

文/高橋 芳朗