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インタビュー

オダギリ ジョー


「フランク・ザッパは初めて聴いたときの衝撃が忘れられないですね。〈なんだこのオッサンは!〉と。〈あっ、こんなことしていいんだ!〉って思わせてくれたんです。マーク・リーボーはトム・ウェイツのアルバムで初めて聴いたんですよ。〈変なギター弾くなぁ、この人〉と思って。でも、あの芸術的な(音の)ハズし方にはホントに毎回驚かされる。で、一応ジミヘンですね。絶対的なのは、その人じゃなきゃ作れない音楽を作ってるかどうか。なので、僕も自分にしか弾けないギターを弾きたいんですよ」と、この男は影響を受けたギタリストについて語る。奇抜な発想と独自の前衛性を推し進めたフランク・ザッパ、世界でもっともストレンジなプレイ・スタイルで多くのミュージシャンから敬愛されているマーク・リーボーのアウト・オブ・キーな変態ギター・サウンド、爆音サウンドとあらゆる手法を用いて音を歪ませるという実験を繰り返してエレクトリック・ギターの可能性を追求し続けたジミ・ヘンドリックス。また、この男はヴェルヴェット・アンダーグラウンド~テレヴィジョン~ソニック・ユース~アート・リンゼイ~ヨ・ラ・テンゴといったNYダウンタウンのアヴァンギャルドでフリー&フリーキーなフィードバック/ノイズ・ギタリストの系譜に連なる存在といってもいい。

 アルバムに先行して発表されたケータイのTVCMタイアップ曲“i don't Know”では、ストゥージズばりのノイジーなガレージ・サウンドを聴かせ、「『デカダンス・ピエロ』っていうアルバムに衝撃を受けて、〈僕がやりたい音楽をもうやっちゃってるじゃん!〉って思った」という、〈ジム・ジャームッシュ映画好き〉同士のコラボとなった勝手にしやがれとの3曲入りシングル“チェリー・ザ・ダストマン”では、ヴォーカルと共にノーウェイヴ的なブッ飛んだギター・プレイを披露。勝手にしやがれの武藤昭平をして〈鬼才〉と言わしめたオダギリ ジョーは、2枚同時にリリースされる初のミニ・アルバム『WHITE』『BLACK』で、この国では極めて独創的に見えるギター・サウンドの数々と、クールで先鋭的なバンド・スタイルによるジャジーなサウンドによってわれわれをさらに驚かせてくれることになった。

「単純に僕がやりたい、っていうかできるのは、(ロック・)バンドっぽい曲をジャズっぽい音で形にするっていうことなのかなぁ、と思ってて。あとロックよりも、〈行動する〉っていうところや攻撃的なところ、それに精神面でも表現方法がより強くなっているパンクのほうが好きで。なので、僕のなかでは〈パンクとジャズの融合〉なんですね、やりたいのは」。

 大まかに言えば、『WHITE』は“i don't know”などアレンジ面においても比較的楽曲の輪郭がしっかりとしたヴォーカル曲が中心で、『BLACK』は自身が監督した映画や、知り合いの製作した映画などに提供したインスト曲が中心となっている。特に『BLACK』では、ラウンジ・リザーズのジョン・ルーリーが手掛けるストレンジながらも美しいサントラの数々にも通じる、斬新な発想と驚きと衝撃が詰まった実験的かつ不思議なサウンドに耳を惹かれる。

「“i don't know”だけで判断されると困るっていう思いがどっかにあるんですよ。僕がやりたいのはむしろ『BLACK』であって、(そのサウンドを)楽しんでほしいんだけど、独り歩きしちゃったこの子(=“i don't know”)がいるから、分けたほうがいいな、と思ったんです。そしたらこっち(=『BLACK』)はこっちで、手に取りたい人だけが取ってくれると思うから」。

 狂暴でエナジー漲るギターだけでなく、ポエトリー・リーディングなども収録された今作は、オダギリ ジョーという表現者が映画監督的視点で音楽を〈監督〉した作品といえるかもしれない。ここには誰もが心を奪われざるを得ないヴィヴィッドで強烈な、心を揺さぶられるイメージがいっぱい詰まっているから。

PROFILE

オダギリ ジョー
76年2月16日生まれ、岡山県出身の30歳。99年にデビュー以来、TV/映画/舞台を中心に数多くの作品で俳優として活躍。一方、プライヴェートでは楽曲の制作活動も並行し、2000年にはファースト・シングル“t.”をリリース。その後も近しい友人らと共に楽曲制作を続けていく。今年に入ると、勝手にしやがれ+オダギリ ジョー名義のシングル“チェリー・ザ・ダストマン”にヴォーカル/ギターとして参加したり、さらに本人も出演するTVCMソングに“i don't know”が起用されたりとミュージシャンとしての活動にも注目が集まるなか、10月4日にミニ・アルバム『WHITE』『BLACK』(共にビクター)を2枚同時にリリースする予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年10月05日 21:00

更新: 2006年10月19日 20:17

ソース: 『bounce』 280号(2006/9/25)

文/ダイサク・ジョビン