Luomo
多様なサウンドと名前を駆使する北欧の奇才が、久々にルオモと名乗って帰ってきた!!
ダブ・ミニマル不朽の極北=ベーシック・チャンネルの後継レーベルとなるチェイン・リアクションでの作品が注目を浴び、ミル・プラトーやフォース・インクからの一連のリリースでエレクトロニカ・シーンに確固たる地位を築いたヴラディスラヴ・ディレイ(以下VD)。VD以外にもシストル、ウージタローなど複数の名義を使っている彼だが、もっとも有名なのはクロスオーヴァー・ヒットしたヴォーカル・ハウスの大名曲“Tessio”とアルバム『The Present Lover』で知られるルオモだろう。それから3年、通算3枚目となるルオモ名義のアルバム『Paper Tigers』がリリースされた。今回も、過去2作でヴォーカルを担当したヨハンナ・リヴァナイネンが続投、VDらしい濃密な音空間が展開されつつも、キッチリとポップでハウスのフォーマットを押さえた、つまりは唯我独尊のルオモ節なのである。
「今作は〈ポップス〉をキーワードに制作に取り掛かった。でも、制作過程でつい実験的なアプローチをしてしまったんだ。だから、ただのハウス・アルバムじゃなく、ヴォーカルやリズム、ポップス主体というコンセプトを活かして、『The Present Lover』を進化させた作品になったね」。
『The Present Lover』のヒット以降、テイ・トウワとの共作や各方面でのリミックスなど外部仕事も急増したが、ルオモがVDのメイン名義になったわけではない。
「リスナーから高い評価を貰うのはもちろんとても嬉しいし、評価されて初めて仕事が完成したようにも思うけど、自分が手掛けた数多い作品中のたった1枚が評判が良かったからって、そこで満足はしてられないんだ。僕はアンビエントや、ハウス、エレクトロニカ、ポップス……いろんなスタイルに興味があるし、いろんなスタイルの音楽を作る。だから、それぞれのスタイルを別名義で推進することによって、リスナーはもちろん、CDショップや、僕自身にとってもその音楽を受け入れやすくなると思うんだ」。
とはいえ、『Paper Tigers』の完成度を聴くに、ルオモがVDにとって特別な名義なのは間違いない。本人は「エクスペリメンタルなVD、ドラマーとしてのアウトプットであるウージタローとは違って、ルオモではポップス及びハウス・アーティストとしての力を最大限に発揮できる。僕が映画監督で、ヴォーカリストは役者ってところかな」と分類するが、音楽制作のソフト/ハードが発達したいまだからこそ、強烈な個性を放つ彼の輝きは増す一方だ。
「テクノロジーの進化についてじっくり考えたことはないな。いまあるモノを最大限に活かそうと思うだけ。深みにハマったら、テクノロジーに逆に支配されそうで嫌なんだ。クリック・ハウスなんて、ソフトウェアを買えば作れるものだからね。だから僕は音楽に集中して、リアルで、人間の温かみのあるものを作りたい。音楽を作っているのは、マシーンじゃなくて、僕だからね!!」。
- 次の記事: お前はどこのルオモじゃ?
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2006年11月22日 22:00
更新: 2006年11月22日 22:41
ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)
文/石田 靖博