インタビュー

THE BIRD AND THE BEE


「単純に私たちふたりが楽しむために始まったプロジェクトなの。楽しみたいからレコーディングを始めたんだし、こうして取材を受けるのも、ショウをやるのも、すべて楽しい趣味みたいな感じなのよね」(イナラ・ジョージ)。

「そう。自分たちが何をやっているのかとか、あんまり深く考えてなかったしね。1曲作って、また次の曲を作って、そうやっていくうちに〈ワオ! アルバムが出来ちゃったよ〉みたいな。で、気がついたらこうしてふたりで座って取材なんか受けちゃってて(笑)、何か不思議な感じだよ」(グレッグ・カースティン)。

 この力の抜け方、このいい湯加減は、なるほど彼らの音楽にも表れている。オッシャレ~な音だが気取りはない。新しいけど懐かしさもある。クールなようであったかい。適度な革新性もあるんだろうが、触感としてはまずカワイイのだ。バード・アンド・ザ・ビー。ヴォーカル&ベース担当のイナラ・ジョージと、マルチ・ミュージシャンのグレッグ・カースティンから成る男女デュオだ。ラジオでヘヴィー・ローテーションされた“Again And Again And Again And Again”の清涼メロディー&ヴォイスが耳に残って、〈これ、誰?〉と気になってた人も多いでしょうが、彼らだったんですね~。ちなみにイナラのお父さんはリトル・フィートの故ローウェル・ジョージ! 対するグレッグは、デヴィッド・バーン主宰のルアカ・バップからリリースのあったゲギー・ターで活動後、プロデューサー/ミュージシャンとしてベックやフレーミング・リップス、最近ではリリー・アレンとも仕事している人なのだ。両者の出会いは、イナラが2005年に発表した初ソロ作『All Rise』の制作時。プロデューサーの紹介でグレッグがピアノを弾くことになった。

「会ったその日にグレッグのピアノを聴きながら歌ったの。気がついたら3~4時間歌ってたかしら。で、彼といっしょにやれたら楽しいだろうなって思って」(イナラ)。

「彼女のライヴでも僕がピアノを弾くようになって、ある時はふたりだけでジャズのスタンダード曲を演奏してショウを締め括ったこともあったんだ。ふたりでもっと何かやれるぞって考えはじめたのは、その頃だね」(グレッグ)。

「ふたりともジャズ・スタンダードが好きで、そこが最初に繋がりを感じた部分だったわね。それで意気投合して。私たちってディズニーのチップ&デール(シマリスのコンビ)みたいなところがあるの」(イナラ)。

 最初に出来た曲は先述の〈Again And Again~〉で、2003年のことだったそうな。

「あの曲には60年代のポップスの感触があって、私たちがその時代を好きだって示せる曲になったから、そこにフォーカスしてアルバムを作ろうってことになったの。そこから3年もかかってるけど、本当に少しずつ進んでいったから、レコーディングに費やした午後のトータル時間は……3週間ぐらいかしらね」(イナラ)。

 そうして登場したファースト・アルバム『The Bird And The Bee』の収録曲はエレクトロニックなサウンドでコーティングされてはいるが、メロディーは確かに60~70年代のポップスに通じるものだ。

「僕らには、いまのポップスよりも60~70年代のそれのほうがおもしろく感じられるところがあって、その感じを取り戻したいという気持ちもあったんだ。だから、当時のものをそのままやるんじゃなくて、新しい音楽として示そうってね」(グレッグ)。

 今様の電化サウンドと伝統に則ったメロディー。その融合である彼らの音楽は、清涼感のなかに毒気も混ざっていて、その加減がステキなのだ。

「ただ甘いだけより、苦味が混ざっているほうが美味しいでしょ!?」(イナラ)。

「うん。多少なりともダークな成分が混ざっているもののほうがおもしろいよ。ハッピーなだけの音楽なんて眠くなっちゃうからね!」(グレッグ)。

PROFILE

バード・アンド・ザ・ビー
イナラ・ジョージ(ヴォーカル/ベース)とグレッグ・カースティン(プロデュース)から成るポップ・デュオ。ローウェル・ジョージの娘として生まれ、いくつかのバンドで歌っていたイナラが、2005年のソロ・アルバム『All Rise』の制作陣にグレッグを迎えたことをきっかけに意気投合し、ユニットへと発展する。グレッグがベックやリリー・アレンらの作品で名を上げていく傍ら、ユニットでのレコーディングを進行し、2006年にブルー・ノート傘下のメトロ・ブルーと契約を果たす。“Again And Again And Again And Again”と“Fucking Boyfriend”という2枚のシングルを経て、このたびファースト・アルバム『The Bird And The Bee』(Metro Blue/東芝EMI)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年03月22日 12:00

更新: 2007年03月22日 20:56

ソース: 『bounce』 284号(2007/2/25)

文/内本 順一