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インタビュー

Stephen Marley


 「俺の毛穴から出てくるのは、レゲエなんだ。俺の目を見てみろよ、声を聴いてみろよ、俺から出ているアロマを嗅いでみろよ(笑)。全部レゲエなんだって」。

 レゲエのロイヤル・ファミリーの次男坊、スティーブン・マーリーはカーキ色のジャケットの上から胸をバンバン叩きながら、こう言い切った。メロディー・メイカーズのメンバーとしてステージに立ちはじめたのが7歳だから、この道25年の大ヴェテランだ。父、ボブ・マーリーを失った翌年からマイクを握った計算にもなる。ところが、意外にもこのたび登場した『Mind Control』がソロとしては初のアルバム。兄弟のジギーとジュリアンは2枚ずつ、キマーニとダミアンに至ってはすでに3枚ずつリリースしているというのに。兄弟たちが活躍している間、次男は何をしていたのか。もうひとつの天分、プロデュース業に精を出していたのである。ダミアン“Jrゴング”マーリーの『Halfway Tree』にも『Welcome To Jamrock』にもスティーブンがエグゼクティヴ・プロデューサーとして名を連ねていたから、彼も当然グラミー賞受賞者だ。98年のボブ・マーリーのヴァーチャル共演コンピ『Chant Down Babylon』も中心人物はスティーブン。

〈プロデュースのスキルはどうやって身につけたのか〉と尋ねたら、「血の中に流れているから」と、あっさり。インタヴュー中、マーリー家の結束の強さを何度も強調し、〈ジャネット・ジャクソンみたいにラストネームをドロップしたくなったことはありますか?〉との質問には「まさか! 俺は名字とセットなんだ」とキッパリ。マーリー・ブラザーズ・ウォッチャーの筆者に言わせると、レーベル=ゲットー・ユースを仕切って兄弟をまとめる役割を果たしているのはこの次男だ。自分を後回しにして弟たちの面倒を見てきたとも取れる。

 全員どこかしら父の面影を宿しながらも、兄弟同士で音楽性はあまり被らない。だが、有名すぎる父の音楽の呪縛から逃れるためか、はたまた世界中を旅しながら育ったせいか、レゲエに他のジャンルの音色を足す点は共通していて、そこを称賛されたり、攻撃されたりする宿命を共有している。『Mind Control』は、渋みが増したぶんだけさらに父に似てきた歌声を、感触の違うさまざまな曲に乗せた意欲作。モス・デフをフィーチャーした“Hey, Baby”では、ダミアンといっしょに作ったというモロにヒップホップなトラックと、彼の直球レゲエな歌唱の融和にブッ飛ぶ。〈これ、レゲエですか?〉と突っ込んだ回答が、冒頭の台詞。実際ジギーやダミアンの作品よりレゲエ濃度は高めで、リード・シングル“Traffic Jam”には80'sのダンスホール風味が溢れているし、彼の歌唱が際立つアコースティックでストレートなレゲエも多い。「一瞬、レゲエに聴こえない曲も、細かく分解して行ったらレゲエのハートビート(=鼓動)を宿しているんだ。それは、父さんの時代から同じなんだ。(“Jammin'”のイントロを口ずさんでから)あれはジャズのコードだ。(“Could You Be Loved”のビートを口ずさみながら)これはファンクだろ。ほかの音楽を採り入れてきたのがレゲエなんだ」と熱っぽく解説してくれた。「俺を見て、R&Bだって感じる人はいないでしょ」と言って笑わせてくれる快活な面があり、兄弟以外の参加者もスプラガ・ベンツや元ロスト・ボーイズのMrチークス、ギターで参加しているベン・ハーパーなど、みんな付き合いの長い友達だ。

「精神的な奴隷制がまだ残っているいま、もっとも伝えるべきメッセージだと思ったから」という表題曲や、マリファナの所持で刑務所にブチ込まれた体験を歌った“Iron Bars”で、ラスタファリアンとしての生き方を示しつつ、グローバルなマーケットに通用するレゲエ作品に仕上げたのは、流石と言うしかない。待った甲斐があった。マーリー家の伝説は、まだまだ続く。

PROFILE

スティーブン・マーリー
ジャマイカ出身のシンガー/クリエイター。72年にボブ・マーリーとリタの間に生まれる。兄弟と共にメロディー・メイカーズを結成し、79年に“Children Playing In Street”でデビュー。グループ名をジギー・マーリー&ザ・メロディー・メイカーズと改めて99年までに10枚のアルバムを発表する。その後は自身のレーベルであるゲットー・ユースの運営にも携わりながら、ダミアン“Jrゴング”マーリーの『Welcome To Jamrock』をはじめ、ブジュ・バントン、Mrチークス、イヴの作品を手掛けるなどプロデューサーとして活躍。また、このたびファースト・ソロ・アルバム『Mind Control』(Ghetto Youth/Tuff Gong/Universal/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年03月22日 13:00

更新: 2007年03月22日 17:55

ソース: 『bounce』 284号(2007/2/25)

文/池城 美菜子