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インタビュー

JiLL-Decoy association


「ダック・デコイ(カモ猟で使われる鳥型の模型)の人間ヴァージョンがあればいいな、と思って、〈JiLL〉っていう架空の女の子を作ってみました。直球で訴えかけて人の心を掴むというよりも、人を引っ掛けておびき寄せるっていうほうが私たちらしいのかもな、と」(chihiRo)。

 誤解を恐れずに言えば、そんな命名の由来が象徴するように、JiLL-Decoy association(以下ジルデコ)の佇まい、そして彼らが奏でるサウンドは実に混沌としていて、とにかく掴みどころがない。

「たしかに、そういう〈掴みどころのないバンドを演じてみたい〉っていう部分はあるかもしれません(笑)」(kubota)。

 ジャズやソウルのエッセンスを下地に、ベースはもちろん、ホーン・セクションやストリングスを適宜サポートに迎えてアレンジを施したオケと、日本語詞のヴォーカルから成る彼らのサウンドは〈J-Popに接近したクラブ・ジャズ〉といった系譜に括られがちだが、このたびリリースされたファースト・アルバム『ジルデコ』で披露した彼らの音世界は、そんな通り一遍のカテゴライズをスルリとかわしていく。

「〈ジャズ〉っていう言葉と〈クラブ〉っていう言葉を自分たちから言ったことはないです。その場で会った人間とセッションするのも魅力的なんですが、〈固定のメンバーで何かを続ける〉っていうことに意義を感じていて。最初の頃はリーグ表を作って、2人1組になって曲を作ったりもしていました」(towada)。

 ジャズやファンク、そしてロックなど多様なフィールドでプレイヤー/シンガーとして各々のキャリアを積み上げてきた3人が集うジルデコとは、単に音楽的な趣向が共通した仲間の集うバンドというよりはむしろ、チャレンジ精神という軸が繋いだ、まさに〈association〉なのだろう。

「〈実験バンドをやるので歌ってくれ〉と誘われたんです(笑)。まったく違った個性の3人が集まっているので、ジャンルで一致団結して始める感じでもなかったから、とにかく自分たちの音ができるまで続けましょう、と。〈続ける〉っていうのがテーマで始まったバンドなんです」(chihiRo)。

 どことなくブランニュー・ヘヴィーズ『Brother Sister』(92年)のカラッとした音世界を彷彿とさせるアーバンでファンキーなオケに、適度な湿度と艶を保ったchihiRoの歌声が絡む “kumo”“Rule of moon”、アンニュイで夢心地のワルツを聴かせる“アイロニー”、心が浮き立つサビのメロディーもポップな“Joly Joly”、さらに5拍子の高速リズムに乗って、言葉遊びのように繰り出されるchihiRoの歌詞も印象的な“like ameba”など、これまで録り溜めてきた振り幅の広い楽曲を詰め込んだ本作。歌メロを重視した曲の構成はヴォーカル・ジャズのそれとは趣を異にしたものだが、歌の添え物に留まらないバックの演奏は、各自のソロも含めて随所で際立っている。

「いまのところは〈メロディーありきで、日本語詞である〉という自分たちなりの縛りをつけているんですけどね」(towada)。

 親しみやすいメロディーと歌詞、骨太のジャズ・ファンも唸らすサウンド――本作には、ジルデコ流のポップ・ミュージックを生成する実験が生み出した、多種多様な成果が敷き詰められている。

「ジャズやクラブ・シーンからJ-Popに寄っていくバンドのなかで、例えばインストのバンドならジャムってポップなメロディーを作っていく楽しみがあるし、クラブ系だったらメンバーを入れ替えてサウンドを変えていくことができる。でもジルデコは、固定のヴォーカリストがいて、歌詞は日本語で、後ろの2人が探っていく音の方向性で楽曲の色が変わっていく、という過程を楽しんでいけたらな、と思っていて……。つまり、〈この3人組でやる〉っていうこと自体にチャレンジしているんです」(towada)。

「〈何でもアリ〉じゃ逆に自由になれないですよね。この3人でやっているからこそ、〈あとは自由にやろう〉っていうことができるんじゃないでしょうか」(chihiRo)。

PROFILE

JiLL-Decoy association
chihiRo(ヴォーカル)、towada(ドラムス)、kubota(ギター)から成る3人組。高校卒業後に渡米してシカゴ音楽大学への留学を経て帰国後、都内でジャズやファンクのバンドに在籍していたtowadaと、大学卒業後にNYでジャズを学んでいたkubotaの2人が、2002年にジャム・セッションでの共演を機に意気投合してバンドを結成。その後、chihiRoが加入して現在の編成となる。都内のライヴハウスやクラブを中心に活動を続け、2006年6月にデビュー・シングル“like ameba”、11月にセカンド・シングル『Jolly Jolly/アイロニー』を発表。今年3月のシングル“輪”を経て、このたびファースト・アルバム『ジルデコ』(ポニーキャニオン)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年05月10日 17:00

更新: 2007年05月10日 17:46

ソース: 『bounce』 286号(2007/4/25)

文/牛島 絢也