Modest Mouse
2007年前半のUSアルバム・チャートを振り返ってみると、1月にシンズが初登場2位、続いてアーケイド・ファイアも2位、ブライト・アイズが4位……と、インディーにルーツを持つ個性派たちが大健闘。なかでも最大の快挙は、モデスト・マウスのニュー・アルバム『We Were Dead Before The Ship Even Sank』の初登場1位獲得だろう。5作目にして、満を持しての頂上征服である。もっとも、ヴォーカルのアイザック・ブロックに感想を訊くと「周りの人は喜んでるけどオレにはピンとこないよ」と、いい意味で素気ない。なにしろシアトル近郊のイサクワにてバンドが結成されたのは、かれこれ14年前のこと。Kやサブ・ポップといった地元のインディー・レーベルを渡り歩き、アンダーグラウンドでの支持を着々と得たのちにメジャーへ移籍。2004年に発表された前作『Good News For People Who Love Bad News』で、ようやくUS国内130万枚のセールスを達成するに至っただけに、いまさら動じたりはしないのだ。
「もちろん、若い頃にブレイクしていたら危険だったかもしれない。でもオレたちは物事が好転しはじめる前に時間をかけて、自分たちが何者で、何のために音楽を作ってるのかを理解できていたからね」(アイザック)。
そんなわけで、大きな期待を背負っていたにも関わらず、プレッシャーは皆無。ご存知ジョニー・マー(元スミス)を新ギタリストとして迎える一方、3人のオリジナル・メンバーが久々に会し、ドラマーを2名に増やして、最強の6人編成で彼らは新作に臨んだのである。
「当初は具体的なアイデアはなかったけど、この6人がオレの家に集まって曲が生まれるままに任せていたら、アルバムの毛色やヴァイブが徐々に見えてきた。そう、アルバムが自然に形作られるのを促すのがいちばんいいんだ」(アイザック)。
こうして完成した本作は、なるほど売れ線からは程遠い。もとからトーキング・ヘッズやピクシーズやペイヴメントなど一連の変化球ロックの文脈で語られ、カントリーもヴォードヴィルもパンクも網羅して、〈シアトリカル〉から〈アグレッシヴ〉まであらゆる形容詞が当てはまる掴みどころのない音楽性が、さらに深化。それでいて無性にポップで、アイザックの唯一無二の歌声が湛えるテンションも、なんとも気持ちいい。
そして唯一無二といえば、ジョニーのギターだ。そもそも2年前に脱退したギタリストが彼の影響下にあったために、アイザックは会ったこともないジョニーをバンドに誘ったのだが、興味を惹かれて渡米した彼はアイザックと意気投合。いっしょにプレイし始めて4日目には、正式メンバーになることを決心したという。
「あの時、特別なフィーリングを実感したんだ。簡単には解析できない音楽を作っていて、実にいい気分なんだけど、その理由がわからない。それって14、15歳で初めて音楽をプレイした時に味わうようなフィーリングなんだよ。誰かを模倣しようにも技術的に未熟でうまくいかないから、極めてピュアでオリジナルな音を鳴らせるのさ」(ジョニー)。
つまり本作は、この偉大なギター・ヒーローを初心に帰したアルバムなのだ。また、結成14年目とはいえ現在のメンバー構成でのアルバム作りは今回が初めて。そのこともジョニーが感じたフレッシュさと無関係ではないだろう。そのうえリリシストとしてのアイザックの才能にも彼は惚れこんでおり、「たくさんのアイデアを1曲に託して、シリアスで不条理でポリティカルでシュールで、同時に詩的でもある曲に仕上げてしまうんだ」と、賛辞を惜しまない。
ちなみに、そんなジョニーにとっても全米1位は25年に及ぶキャリアで初の体験なのだが、「記録も嬉しいけど、それ以前に音楽に興奮していた」と強調する。
「たとえ自分がプレイしていなかったとしても、僕はこのアルバムを買って聴いていただろうね!」(ジョニー)。
PROFILE
モデスト・マウス
アイザック・ブロック(ヴォーカル/ギター)、エリック・ジュディ(ベース)、ジェレイア・グリーン(ドラムス)、ジョニー・マー(ギター)、トム・ペローソ(ウッドベース)、ジョー・プラマー(パーカッション)から成る6人組。93年、アイザックを中心にワシントン州はイサクワで結成。96年にファースト・アルバム『This Is A Long Drive For Someone With Nothing To Think About』をリリース。その後、メンバー交代を繰り返しながらサブ・ポップやKから作品を発表していく。99年にエピックと契約。2007年3月、メジャー3枚目となるニュー・アルバム『We Were Dead Before The Ship Even Sank』(Epic/ソニー)が全米チャート1位を記録。6月6日にその日本盤がリリースされる。