インタビュー

UA

鮮烈なデビューから12年。常にシーンの最前線で先鋭的な表現を行ってきたアーティストが、円環を一周して〈歌手〉としての新たな境地で作り上げた大傑作!!


 UAのニュー・アルバム『Golden green』から聴こえてくる圧倒的な〈歌〉。それはもはや歌唱力の凄さではない。誤解を恐れずに言えば、歌詞に込めた感情の深さや切実なる表現力の強さでもない。純粋に〈歌〉。言葉を、歌を、届ける人の、〈心〉とか〈魂〉とかいう、もうそうとしか言いようがない感じがする。そこには歌として届いてほしいという真っ直ぐな美しさがあり、私たちはそれに触れて、揺さぶられる。人から人へ〈伝わる〉ということの本質とは、きっとこういうことなのだろう。

「もう〈歌なんです〉、〈歌手なんです〉っていうところでやろうと思ったの。そのほうが人が喜ぶんだなって思ったしね。だからこのアルバムは、自分のためではなく、聴いてくれる人を意識して作った初めてのアルバム」――UAはそう言う。

「だけどね、自分のためじゃないところに行ったっていうのは、そこも逆説的なんだ。私はここに生まれてきてしまっていて、ネガティヴな意味じゃなくて、今日も朝起きて、今日もまた始まるぞって言ったら、何かしなくてはと思うわけだよね。もしも私が農家の娘であれば、〈さあ、田んぼに行くぞ〉とか、〈葉っぱの手入れに行くぞ〉とか、それぞれ生まれてきてやれることがある。だけど私は現代のこの病んだ世の中で生まれ育ってきちゃったので、放っておくと孤独感にすぐ苛まれてしまう。でもそんな中で、歌という表現に私はこの10年すごく救われたし、歌うことでずっと自己肯定をしてきた。でも、自己肯定だけの行為だと自分で幸せだと感じる量がもう足りないというか、質が変わってしまったんだよね。だから、〈こういうテーマをやらなくては〉と思って歌ったのではなくて、じゃあ何を歌えるのかって思ったとき、地球にいるリアルな自分というかね、そういうことを歌っていこうと思ったの」。

 UAはデビューからずっと、自分に欠けた「もう一方」――女であれば男、闇であれば光――を求める歌を歌ってきた。そこから逃れるように光だけを見て歌う時期もあったという。しかし私たちもまた痛いほど知っている――そのもう一方を求める人間の哀しみも、そこから精神性に道を求めてしまう心理も。だから彼女の孤独は、そのまま私たちのリアリティーであり続けたし、彼女の歌が圧倒的であったのは、その孤独に徹底的に向き合ってきたからこそ発せられる、本当の声だったからだ。

「だけど今、二元論でずっと来ていたそのことが、もうホントにひとつになるときという感じがしている。ホントに、私、変わったって思うの。変われる自信というのかな、それがちゃんとある。やっぱり変わりたいって思っているうちは変われないんだね」。

 UAが現代社会の象徴であるような東京から田舎に引っ越し、自然の中に身を置く生活を始めてから3年が過ぎた。実際に土の上に立ち、その温もりや自然の逞しさを具体的に感じている彼女にとって、生まれてきた歌もまた、自然の美しさや力強さ、繰り返される巡りをリアルに伝えるものとなっていった。

「(先行シングルの)“黄金の緑”もそうだけど、緑に対する感謝というのがここにきてホントにグンと深まっている。このアルバムがこういうふうにできたこと、そのものすごい大きな協力というのをもらえたのも、ホントにその存在があったからだと思う」。

 そしてそれを真っ直ぐに伝えようとするUAの歌は、誰しもの哀しみを分け合う歌ではなく、自然から切り離された場所で暮らす私たちへ、地球に生きる本当の喜びを伝えるメッセージとなっていく。〈魂〉から〈魂〉へと歌が伝わる――その間には本来、隔たりなどないということもまた、彼女の歌のメッセージとして、私たちの心に響いてやまない。
▼『Golden green』に作曲、プロデュース、演奏で参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年06月28日 19:00

ソース: 『bounce』 288号(2007/6/25)

文/川口 美保

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