こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

SIMIAN MOBILE DISCO


 他のジャンルと積極的なクロスオーヴァーを図り、レイヴ復興の機運も受け、現在、大きな盛り上がりを確かに感じさせるダンス・ミュージック。不思議なもので、シーンに活況が戻ってくると、さまざまな価値観を持った作品が登場し、他のジャンルから多くのリスナーを誘うような大きなウネリが起きる。それは10年前にケミカル・ブラザーズやプロディジーたちが起こした流れであり、現在ではジャスティスやデジタリズム、そしてここで紹介するシミアン・モバイル・ディスコらが担っている役割である。このたび初のアルバム『Attack Decay Sustain Release』を完成させた彼らも、そんな自身の状況を肌で感じているようだ。

「僕自身にとってはエイフェックス・ツインがその役割を果たしてくれたんだ。何年も前に彼が僕らに新しい扉を開いてくれたんだよ。そして、確かに僕らの音楽は〈ロック・キッズがダンス・ミュージックに入るための入り口〉になり得ると考えている」(ジェイムズ・フォード)。

 とはいえ、ダンス・ミュージックが普及する前の当時と、すでにポピュラーになった現在の状況は大きく異なるわけで、リスナーを惹き付ける新たなアプローチが必要になってくる。そこで彼らが実践したのがアナログ機材による録音。ピュアなダンス・トラックを1曲3分、アルバム・トータルで36分というコンパクトな形に凝縮すること。メロディーを重視し、展開を多彩にすることだった。

「コンピュータでプログラムすれば予定どおりの結果が正確に得られる。でもそこには驚きが欠けている。僕らはアナログの機材で予想しない驚きやワクワク感を取り戻したかった。僕が初期のアシッド・ハウスやテクノに惹かれる理由は、まさにそうした人間的な要素だからね」(ジェイムズ)。

「もともとは長いクラブ仕様の曲だったけど、聴き返すのがマジで大変でね。それで余計なものを削りまくった。その作業が凄く楽しかったんだ」(ジャス・ショウ)。

「あと次々と何かおもしろいことが起きるのも重要だった。だからヘンテコな要素やポップな要素、ヴォーカルを入れて、ひたすらダイナミックで興味を掻き立て続ける、変化し続けるアルバムを作ろうとしたんだ」(ジェイムズ)。

 そうした彼らのアイデアには、前身バンド=シミアンでの経験や、ジェイムズがプロデュースするクラクソンズやアークティック・モンキーズらの新興バンド、そして新しいリスナーの登場が影響している。

「間違いなく影響はあるよ。でも、ロック・バンドと仕事をしたからって、僕らがロックをやるわけじゃない。ただ頭のどこかにその要素や経験があることで、作品に何らかの変化がもたらされていると思う」(ジャス)。

「いまはラップトップ1台でエキサイティングな音楽が自分の好きなように作れるよね。聴き方だって変わった。さまざまなジャンルの音楽をネットで試聴できるから、中身を知らないCDにお金を払うリスクもないし、違うスタイルの曲を自由にシャッフルして聴ける。そうやって新しいものへの偏見がなくなったよね。だから新しい世代の若者たちが作る音楽って物凄くエキサイティングなんだよ。僕らはいま新たな気運の真っ只中にいる。音楽を作ること、聴くこと、シェアすること、何か新しい現象が起きている。まるで60年代の再来だね。音楽にとって非常にエキサイティングな時代の到来だし、僕らの作品がそれを告げるものになれたなら……ね」(ジェイムズ)。

 言うまでもなく、そうした新しい時代の中心で活躍するのは若いアーティストであり、リスナーだ。そんな彼らの感性と時代の空気を存分に吸い込んだ新感覚のダンス・アルバム『Attack Decay Sustain Release』。まるで優れたパワー・ポップのアルバムを思わせるキャッチーでドラマティックな聴き心地。満天の空に降り注ぐ流星のような美しさと目眩く展開は、シーンに新たなフェイズが訪れていることを雄弁に物語っている。

PROFILE

シミアン・モバイル・ディスコ
ジェイムズ・フォードとジャス・ショウから成るエレクトロ・デュオ。2000年にソースUKからデビューしたロック・バンド、シミアンのメンバーとして活動していた2人がバンドのシングル“La Breeze”“Never Be Alone”などをリミックスする際に用いた名義に由来している。シミアン解散後の2004年に正式なユニットとしての活動をスタートし、同年のデビュー・シングル“The Mighty Atom”以降、キツネなどからコンスタントにリリースを重ね、並行してエールやピーチズらのリミックスを手掛けていく。2007年にウィチタと契約。シングル“It's My Beat”が話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『Attack Decay Sustain Release』(Wichita/V2)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年06月28日 19:00

ソース: 『bounce』 288号(2007/6/25)

文/佐藤 譲