インタビュー

T-Pain


  今年下半期のアーバン・ミュージックの主導権は、どうやらコンヴィクトが掌握することになりそうだ。その急先鋒はもちろんレーベル・オーナーのエイコン(最新作『Konvicted』の全世界セールスは早くも350万枚を突破)になるわけだが、ここにきて絶好調のボスに迫る活躍を呈しているのが約1年半ぶりの2作目『Epiphany』をリリースしたばかりのT・ペインだ。昨夏のE-40“U And Dat”のヒットを契機に急増した彼の客演数は、今年に入ってからも増加の一途を辿って現時点での総数実に30曲以上。そんな勢いに乗じて、ついには今回の新作からの先行シングル“Buy U A Drank(Shawty Snappin')”を軽々と全米チャートの首位に送り込んでしまった。“I'm Sprung”と“I'm N Luv(Wit A Stripper)”のTOP10ヒットを輩出したファースト・アルバム『Rappa Ternt Sanga』の段階ですでに一定の成果を上げていたとはいえ、まさかこれほどまでの圧倒的な支持を勝ち得ることになろうとは。

 「『Rappa Ternt Sanga』の成功はまったく想定してなかった。誰が買ってくれるのか予想もできなかったよ(笑)。客演にしたってそう。いろんなアーティストが俺とコラボしたいって言ってきてくれるんだけど、何でそうなるのか本当にわからないんだ」。

 当の本人も困惑するT・ペイン人気の秘訣、それはとことんまでリアリティーを突き詰めた詞世界にある。事実、とにかくリアルにすることだけを考えて作ったという『Epiphany』のコンセプトはずばり〈Be Real〉。HIV感染を題材にした“I Got It”~“Suicide”も含め、収録曲で扱われているサブジェクトは基本的にすべて自身の実体験に基づいている。

 「話を作ったりせずに、リアルなことだけを書いてる。パーソナルなことは話したがらないアーティストもいるけど、俺は逆だね。自分の実体験や気持ちをそのまま表現していきたいと思ってるんだ。それが多くの人々を共感させる音楽を生み出す秘訣だと思ってるよ」。

 そんな徹底したリアリズムに裏打ちされたT・ペインのラヴソングは、世の男たちがあたりまえのように持ち合わせている願望や妄想を巧妙に刺激してくる。恩師エイコンをフィーチャーしたバーテンダーとの恋愛劇“Bartender”、そしてクラブでのナンパの一部始終を綴ったアダルトなムードのスナップ・チューン“Buy U A Drank(Shawty Snappin')”などは、前作での“I'm N Luv(Wit A Stripper)”や“U Got Me”の流れを汲む楽曲として多くの共感を集めることになりそうだ。

 「バーテンダーに恋をして叶わなかったことなんて何度もあるよ(笑)。だって、バーテンダーの役目は客を酔わせることだぜ? 酔わされたら自然と好きになっちゃうよ(笑)。“Buy U A Drank(Shawty Snappin')”のほうは女の子と出会って会話を始めようとする流れを描いてる。一杯おごるよ、って感じでね」。

 また、この『Epiphany』ではみずからが主宰するナッピー・ボーイ・エンターテイメントのニューカマーが紹介されていたりと、T・ペインの今後の展開を示唆する要素を散見することができる。特に今回新たに生み出された3種のオルター・エゴ、〈Teddy Pain〉〈Teddy Penderazdoun〉〈Teddy Verseti〉らがこの先どのように発展していくかは非常に興味深い。

 「〈Teddy Pain〉はレイドバックしたキャラ。〈Teddy Penderazdoun〉はどっしりと構えてる感じ。〈Teddy Verseti〉はハードコアな奴だね。毎週のように新しい名前が生まれてるから今後も増えていくと思うよ(笑)」。

 増えていくのは一向に途絶える気配のない客演依頼にしても同様だ。ブリトニー・スピアーズからアッシャーに至るまで、将来的に予定されているコラボは本人が把握しているだけでも30曲以上。オートチューンを駆使した幻想的なヴォーカルに乗せてゲットーの愛と痛みを歌うT・ペインの快進撃は、ひょっとしたらこれから本格化を迎えるのかもしれない。

PROFILE

T・ペイン
フロリダ州はタラハシー出身、85年生まれのシンガー/プロデューサー。11歳の時から音楽制作を開始する。10代半ばでナッピー・ヘッズなるラップ・ユニットでデビューするが、ほどなくしてソロ活動に移行。2005年のメジャー・デビュー・シングル“I'm Sprung”が全米8位、続く“I'm N Luv(Wit A Stripper)”が同5位と連続ヒットを記録し、ファースト・アルバム『Rappa Ternt Sanga』はゴールド・ディスクに輝く。同時にE-40やR・ケリー、イグジビット、アンクらの楽曲に精力的に客演して支持を拡大。先行シングル“Buy U A Drank(Shawty Snappin')”の全米No.1ヒットを経て、このたびセカンド・アルバム『Epiphany』(Konvict/Jive/BMG JAPAN)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年07月19日 23:00

ソース: 『bounce』 288号(2007/6/25)

文/高橋 芳朗