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インタビュー

Matthew Dear

彗星のように姿を現し、さまざまな名前を駆使して世界中のダンスフロアを蹂躙しまくったマシュー・ディア。来日も間近に控えた才人の次なる一手を喰らえ!!


  いまクリック・ハウス~マイクロ・ハウスを聴くなら、そして語るなら、マシュー・ディアのことを避けることはできない。本人いわく「エクスペリメンタル・ポップ」だという本人名義に加え、「ダンスフロア・テクノ」だというオーディオン、マイナスからの「暗くて破壊的、ひねくれててスピリチュアル」なファルス、さらにはペルロンからの「ハウス」なジャバージョー……と数多くの名義で活動する彼の名を広く世間に轟かせたのは、クリック・ハウス界隈だけでなく王道ハウスからイビザ系までを蹂躙する特大キラー・チューンと化した、オーディオンでの“Mouth To Mouth”であろう。

 「あの曲が出来た時は、こんなに世界中のフロアでヒットする曲だとはまったく思ってなかった。オーディオンにとっては、特別でおもしろいトラックだと思っていたけどね」。

 同曲のみならず、これまた大人気の“Just Fucking”も収録したアルバム『Suckfish』、そしてDJとして最高の腕捌きを聴かせたファブリックのミックスCD、ケミカル・ブラザーズの最新シングル“Do It Again”(ケミカル兄弟のリミキサー選定センスは注目)などにおけるリミックス・ワーク……と、オーディオン名義での活動はマシューのキャリア全体に光を当てる旬で賑やかなものとなった。かくして空前のマシュー景気に湧くなかでリリースされたのが、本人名義でのサード・アルバムとなる『Asa Breed』だ。ただ、同作はオーディオンの快感よふたたび……と寄ってきたリスナーにとってはビックリの内容かも知れない。マシュー自身のヴォーカル(やや高橋幸宏似?のニューロマ風味)を全面的にフィーチャーし、注目のモービウス・バンドも参加したエレクトロ・ポップ作品に仕上がっているのである。

 「僕にとってマシュー・ディア名義の作品はエクスペリメンタルなポップ・ミュージックへの試みなんだ。今作の制作中はテクノDJと子供のロック・バンドがセッションしたようなサウンドのイメージを描いていたよ。デヴィッド・バーンやブライアン・イーノ、アーサー・ラッセルのようなサウンドだね。歌うのは楽しいけど、僕は本物のシンガーのようにメッセージを言葉と歌唱力で訴求できるタイプのヴォーカリストじゃないことぐらい十分知ってるから、自分の作品のためだけに歌っているんだ。歌うこともトラックを作ることも同じように楽しんで、このアルバムを作ったよ」。

 この後には、リッチー・ホウティン率いる一大クリック帝国=マイナスからファルスでのセカンド・アルバム『2007』がリリース予定である。彼自身も「リッチーはグレイトだよ。マイナスも良いレーベルだよね。彼らのリリースはいつも楽しみにしているんだ」と語っているが、先行12インチ“Fed On Youth”を聴く限り、同作はダークかつファンキーなフロア対応クリック・ハウス集になりそうだ。さらに、オーディオンとしては今年の〈METAMORPHOSE〉へのライヴ参戦も決定している。

 「DJの時はコンピューターもアナログも両方使っているよ。ヒップホップDJのスクラッチのような即興のエフェクトやミックスをコンピューター上で加えたりしている。DJやライヴはその時の雰囲気でいろんなことができるから楽しいし、ハプニングを楽しんでいるね。〈METAMORPHOSE〉ではアグレッシヴで力強く、おもしろいサウンドを楽しんでもらえると思うよ。会場のみんなが踊ってマインドを解放できるような、エナジーに満ちたテクノ・サウンドを披露するよ。いまから楽しみだね」。

 それと並行して、8月までマシュー・ディアズ・ビッグ・ハンズ名義でのライヴ・ツアーをUSとヨーロッパで行い、同時にオーディオン名義のDJツアーで世界中のサマー・フェスも回るという彼。「今年の夏はとても忙しいね」と話すとおりに、いま最高にギラギラと輝きを放ち、〈天才〉と呼ぶことに何の違和感もない2007年のマシュー・ディア。そのサウンドを心に焼き付けておくのは、2007年のテクノ好きにとっての義務であろう。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年07月26日 20:00

ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)

文/石田 靖博