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インタビュー

YUNG JOC


「あのレコードは、本当にタイムリーなリリースだったと思う。ビート、リリック、フック、そしてフロウまで、すべてがタイムリーだったんだ。レコーディングしていた時のことを思い出すね。スタジオでフック部分をなかなかキメられなくて、一度自宅に帰って、3日ほど費やして浮かんだのがあのフックなんだ。それが俺の人生に最大の転機を与えてくれた」。

 いわゆる〈モーターサイクル・ダンス〉の大流行を巻き起こし、全米チャートでいきなり3位まで上昇した“It's Goin Down”についてこう語るヤング・ジョック。ギザギザしたチープなシンセ・リフと単純なフックのリフレインがみるみる中毒患者を増やしていき、結果的に2006年を代表するアンセムとなった同曲の裏には、思った以上の熟考が存在していたわけだ。ほとんど無名のプロデューサー陣で固めたファースト・アルバム『New Joc City』の特大ヒットについても、「大物を起用するカネもなかったし、何より俺やプロデューサーたちが成功したいというハングリー精神を持っていたからこそサクセスへと繋がったんだ」と熱く語るあたり、真剣にヒップホップ・ゲームに取り組むジョックのガツガツした本気度が伝わってきて清々しい。

 それからおよそ1年。全米チャートを制したT・ペイン“Buy U A Drank(Shawty Snappin')”やエレファント・マン“Five-O (Remix)”などの客演を通じてホットな人気者としての地位を盤石にし、いまやバッド・ボーイの看板という期待まで背負った彼が、早くもセカンド・アルバム『Hustlenomics』を完成させた。

「ひとつの生き方を表現したタイトルなんだ。〈Hustle〉はアーティストとして生きる俺の基本となるメンタリティーであり、アティテュードさ。それに〈Economics〉、つまりビジネス的な概念を組み合わせた。生き方とビジネスが対立する部分に存在する俺の思想が凝縮されたアルバムってことだね。音楽的にもいままでとは違ったビートやフロウにトライして、新境地的な部分も表現できたよ」。

 その最たる例が先行シングルの“Coffee Shop”だろう。子供の歌声とトラップ・ビーツが交錯するユーモラスな聴き心地だが、もちろんカフェや喫茶店の歌ではなく、アムステルダムなどでいうところの……いわゆる〈取り引き場所〉をモチーフにストリートの風景を描いたトラックである。

「皆がハスリングしている独特の空間で、水面下で駆け引きが激しく交差している。そのシチュエーションってまるでストリートの縮図じゃないかって思ったんだよ」。

 そういう答えからも彼が単なるハスラー気取りじゃなく、伝えたいサブジェクトをキャッチーに表現できる芸達者だということがわかるだろう。また、今回のアルバムでは前作になかった豪華なコラボが実現しており、リック・ロスやトリック・ダディ、ゲーム、バン・B、ジム・ジョーンズ、ディディ、スヌープ、そして新しいレーベルメイトのゴリラ・ゾーらがワサワサ登場してくるのだが、「ゲストは俺が選んだし、もちろんトラックのコンセプトにしっくりくる、起用されるべき奴だけを起用しているよ」との言葉どおり、よくある主役不在状態もない。そんな彼はリスナーの存在がモチヴェーションだと語る。

「俺は俺に潜在するベストの部分を常にレペゼンしているし、良い音楽をリリースしていきたいという貪欲さは決して失うことがないね。今回はファンのために〈セカンド・チャンスは必ずあるから、いつでもベストを尽くしていこう〉みたいにポジティヴなメッセージも入れたんだ。それは俺自身に言い聞かせていることでもある。シリアスなテーマの曲もあるけど、そういった部分も感じ取ってくれたら嬉しいよ」。

 なお、ジョックへの多大な影響が囁かれるアトランタの大物たちについて訊ねると、「ヤング・ジーズィはいま30歳、T.I.は27歳、そして俺は24歳。ジェネレーション的には近いのかもしれないけど、俺がいちばん若いんだぜ」との答え。新しいルールはいつも新しい才能が作っていくのだ。

PROFILE

ヤング・ジョック
83年生まれ、ジョージア州はカレッジパーク出身のラッパー。子供の頃からサックスやドラムを演奏する一方、ランDMCやアウトキャストらに憧れてラップを始める。10代の頃に友人と音楽プロダクションを設立し、CMジングルなどを制作。2005年にブロック/バッド・ボーイ・サウスと契約し、2006年のメジャー・デビュー・シングル“It's Goin' Down”とファースト・アルバム『New Joc City』がいずれも大ヒットを記録する。今年に入って参加したT・ペインの“Buy U A Drank(Shawty Snappin')”で全米No.1をマーク。先行シングル“Coffee Shop”が話題を集めるなか、9月5日にセカンド・アルバム『Hustlenomics』(Block/Bad Boy South/Atlantic/ワーナー)がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年09月13日 23:00

ソース: 『bounce』 290号(2007/8/25)

文/轟 ひろみ